橋の上の娘
LA FILLE SUR LE PONT


1999年12月24日 東京 ル・シネマ1 にて
エロチックでストイック、運命の出会いってこんな感じ?


written by ジャックナイフ
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誰とでも寝ちゃう軽い女の子アデル(ヴァネッサ・パラディ)はそんな自分と未来に悲観して橋の上から飛び込もうとします。通りかかったナイフ投げの中年男ガボール(ダニエル・オートゥイユ)がとめようとしますが、結局ドブン。ガボールがすぐに飛び込んで助けあげ、彼女は一命をとりとめます。そして、アデルはガボールの投げるナイフの的となります。行く先々で言い寄る男を拒めないアデルですが、ガボールは彼女を抱こうとせず、彼女を暖かく見守ります。でも、ナイフ投げの瞬間は別です。その瞬間は二人だけの陶酔の世界が展開するのです。そして、ギャンブルでもツキまくる二人にとってお互いは幸運の神だったようなのですが、思わぬところで二人に別れの時がやってきます。静かに見送るガボール、でも、その行く先は?

パトリス・ルコント監督の映画って、3本しか観たことがないのですが、「仕立て屋の恋」の印象が大変に強くて、情念の世界に走る人かと思ってちょっと危惧していたところもあります。今回はのっけから、アデルの尋問(インタビュー?)シーンから始まりまして、その長回しのテンションの高さは、また究極の愛に突っ走るのかといういやな予感が頭をよぎりました。自分がどういう人間で、どういう過去を持っているのかを淡々と語る彼女は、ちょっとかわいいけど、更正の望みのない不良少女に見えます。そのどうにもならなさが、自殺につながるのなら、かなり説得力があるキャラクターといえそうです。しかし、ドラマが始まると、自殺未遂のくだりはなかなかにコミカルにテンポよく展開していきます。

そして、話がついてナイフ投げの的になるアデルですが、ショーのためにドレスアップするとこれがなかなかに色っぽいいい女なのですよ。そして、ナイフ投げのシーンは、マリアンヌ・フェイスフルの歌をバックに大変官能的であり、また感動的な見せ場になっています。普段は冴えない中年男といったガボールがナイフを持ったときは獰猛なケモノの目になります。それを受けてたつアデルが全身で、彼の視線、感情、そしてナイフを受け止めようとするあたりが圧巻です。そのエロチックなシーンが劇中何度も登場するのですが、それを異形の愛とはしていないところが、「仕立て屋の恋」のストーカーとは一線を画しておりまして、好感が持てました。

アデルは、自分の中に絶望を秘めたヒロインで、時として捨て鉢な態度もとりますが、一方で常に何かを求めつづけています。でも、自分にとって大切なものをよくわかっていません。ですから、刹那的な行動も取ってしまいます。そんな彼女と、行動を共にするガボールが一歩退いたところに身を置いているのが、なかなかのいい男ぶりなのです。その分、後半、彼女を失ってしまうとメロメロになってしまうのが何だか切ないのです。本当は、アデルのことを思いつづけるガボールと、自分のガボールへの想いに無頓着なアデル、そんな二人の道行きにいかなる結末が待っているのか。フランス映画では、この類のすれ違いが最後に結実するケースは少ないのですが、その決着は劇場でご確認下さい。

二人が空間を隔てていても、会話を交わすことができるという趣向が、面白くて、そしてこの会話の形が二人の運命的な絆を感じさせます。この仕掛けは舞台ではありそうな気もしますが、これを映画で使っているのがなかなかに目新しく、自然な会話の形にしているのがうまいと思いました。

シネスコのモノクロ画面をシャープに捉えた、ジャン・マリー・ドルージュのキャメラも見事でした。「女優マルキーズ」で落ち着きのある色合いと空気感が素晴らしかったのですが、今回は一転して、コントラストのきついクリアな絵を作り出しています。この光の使い方が時代とか場所を超越した不思議な世界を作り出しています。物語の舞台は、パリからモナコ、そしてアテネへと移り変わるのですが、あくまで二人の世界で物語は展開していくという印象なのです。クリアなモノクロ画面が純粋な愛の世界につながっているのかもしれません。

ナイフ投げという行為自体が、危険な死の匂いがつきまといます。そして、そこに繰り広げられる愛の物語と言うと、いわゆる心中ものという雰囲気があるのですが、この映画は意外なほど、そういうドロドロとした印象がありません。むしろ、コミカルでカラリとした空気感が何だか心地よい映画です。ラスト近くで、そういう情念の世界に踏み込むのかなという展開にもなるのですが、後味は悪くないのですよ、これが。ヴァネッサ・パラディのキュートな魅力がラストでうまく生きました。


お薦め度×これは観といて損はない。かなりおすすめ。
採点★★★☆
(7/10)
情念の世界に入りこむ一歩手前のラストが好き。

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