written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
野原一家全員が、昔風のいでたちをしたきれいなオネーさんの夢をみました。シロは庭に穴を掘り出し、しんちゃんは文箱の入った自分からの手紙を見つけます。と、気がつくと、そこは戦国時代の春日の国、ひょんなことから、鬼と呼ばれる武将、井尻又兵衛の命を救ったしんちゃんはお城へと案内されます。又兵衛は幼なじみでもある城のお姫様、廉姫に好意を持っているのですが、身分違いの恋と諦めながらも、募る思い。一方、ひろしやみさえもこの時代にしんちゃんを追ってやってきます。縁談の申し出を断ったことから、高虎の軍勢がこの国に攻め入ってきました。果たして、しんちゃんたちの運命は?そして、又兵衛の想いは廉姫に届くのでしょうか。
前作の「オトナ帝国の逆襲」で、行きつくところまで行ってしまったという印象があった、「劇場版クレしん」シリーズの新作です。今回は戦国時代を舞台にしたしんちゃんのドタバタでして、笑いの部分もきっちり描いて、子供たちにもかなり受けていましたが、メインのプロットに、前作同様、しんちゃんの理解できない大人の世界を盛り込んで、大人の観賞にも十分耐える映画に仕上がっています。と、いうより、また泣かされてしまいました。前作ほどの泣きモードにはならなかったものの、悲恋ドラマを見せられるとは思いませんでした。チビッコにはわからない、切ない気持ちをきっちり描いているあたりの潔さは毎度のことながら、感心させられます。
また、今回の戦国時代の部分は、リアルなアニメ描写になっており、キャラクターも原作のマンガを離れた、アニメ風の見た目になっています。そのリアル系キャラと野原一家が絡むあたりは、視覚的にはやや無理があるのですが、このあたりも力技で見せきっています。
また、予告編で観たときに気になった、しんちゃんが実際に足軽をやっつけたり、矢が飛び交う中をひろしが突っ込んで行くといったシーンは本編にはありません。戦をオチャラケるような、そんなのあるわけないじゃんというムチャを本編でやっていないあたりは好感が持てます。今回のひろしは戦国時代という血生臭い設定にビビリまくりですからね。その中でしんのすけだけが、子供ならではの無知の強みで突っ走るあたりが見所になっています。そして、戦闘シーンの見せ方もかなりシリアスですし、敵兵に囲まれた中を討って出るシーンも泣かせます。そのシリアスさを、変にタメの演出をしたり、見得を切らないで、淡々と見せているあたりに作り手のセンスを感じます。
いわゆるアニメというのは、感情や行動を過剰にデフォルメすることでテンションをあげることができます。だからこそ、料理とかTVゲームみたいなものを人生の一大事のように描くこともできますし、現実感に乏しい宇宙戦争とかを、子供たちの身近に感じさせることができます。その一方で、現実世界の経験豊富な大人が観た時には、そのデフォルメや高いテンションが一人よがりのように見えて、その世界に入り込めない時もあります。この映画のいいところは、子供のためのハイテンションとは別に、大人を納得させるドラマを描いているところだと思います。別にいい年した大人がアニメを楽しむこともないだろうというのは、ごもっともなんですが、この映画は大人の娯楽映画として観ても、かなりいい点を稼いでいるのは事実でして、このシリーズ、当分、足を運び続けることになりそうです。まあ、単に下品なしんちゃんのギャグを見てるのも、気分が童心に返って楽しいってこともあるんですけどね。
お薦め度 | ×△○◎ | まさか「クレしん」で悲恋ドラマで泣かされようとは思わなんだ。 |
採点 | ★★★★ (8/10) | 今回のしんちゃんはどっちかというと脇役なのかな。 |
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