クレヨンしんちゃん夕陽のカスカベボーイズ
KUREYON SHINCHAN IN THE WEST


2004年04月24日 神奈川 TOHOシネマズ川崎2 にて
不思議な西部劇の世界に連れて行かれたしんのすけ一家の運命は?


written by ジャックナイフ
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リアル鬼ごっこで春日部の町を走り回っているしんちゃんたち。路地の裏に入ったところ、そこには古ぼけた映画館がありました。中は誰もいないんですが、映写機は回っていて、スクリーンには砂嵐が映っています。しんちゃんが家に帰ると、一緒に映画館にいた筈のカスカベ防衛隊のメンバーが行方不明と言われ、みさえ、ひろしと共に、もう一度映画館に向かいます。相変わらず映写機は回っています。気がつくと野原一家は西部の砂漠の中にいるではないですか。そして、やっとたどり着いた町は、ジャスティスという男が牛耳っていました。どうやら、他にも映画館からここに連れ込まれた連中がいるようなんですが、ここにいると過去の記憶が徐々に薄れていき、最後にはこの町の住人になってしまうようなのです。野原一家もこの町で暮らすようになり、段々と春日部の記憶も薄れ始めてしまいます。でも、この町はちょっと変。周囲に他の町はないようだし、何より太陽が空のてっぺんからピクリとも動かないのです。果たして、しんちゃんは全ての記憶を失う前に春日部に帰ることができるのでしょうか。

毎度、そのクオリティの高さで評判のクレヨンしんちゃんシリーズです。前作で監督が原恵一から水島務にバトンタッチして、ちょっと物足りなさを感じたのですが、今回も水島監督が前作より続投しています。今回は映画の中に吸い込まれて出られなくなるという、怪奇小説を思わせるストーリーを柱にして、カスカベ防衛隊の友情や、西部劇のパロディなどを盛り込んだ娯楽編に仕上がっています。

オープニングのリアル鬼ごっこでまず笑いをとる(ここは相当おかしい)のですが、子供たちが路地裏に入って、映画館が出てくると、急にスリラータッチの展開になってきます。映画館の部分を丁寧に描いたので、映画館がドラマの中で常に主人公であり続けることができたとも言えましょう。映画に取り込まれてしまう設定が、戦国時代にタイムスリップといったこととは違う、皮膚感覚的な怖さとして表現されているのが面白いところです。

この映画で見応えを感じるのは、前半の不思議な世界に取り込まれていくくだりです。ものすごく理不尽な設定なんですが、それでも、ここから脱出することをあきらめないようにと頑張るしんちゃんの頑張りが泣かせます。他の連中がここで暮らすことを半ばあきらめとともに受け入れようとしている時、しんちゃんとぼーちゃんだけは、過去を忘れまいと頑張るのです。この西部劇世界に、異世界感と生活感の両方をうまくバランス良く盛り込んだ脚本がうまいと思いました。それは、劇画風のキャラクターと普段のクレヨンしんちゃんの面々が共存しても、不自然にならないうまさとつながるものがあるのでしょうか。全体のバランス感覚がうまく、この映画独特の世界を作り出すことに成功しています。

後半は、なぜ太陽が動かないのかというところから、この世界の謎が解かれていくのですが、ここも基本設定の面白さがうまく物語に取り込まれています。そして、クライマックスはスーパーパワーを手に入れたカスカベ防衛隊とジャスティス一味の列車チェイスとなって、活劇としての見せ場をたっぷりと見せてくれます。なぜか突然登場する「荒野の七人」といった大人向け(しかし、大人でも限定ネタだよなあ)のネタも盛り込んで、最後には巨大ロボと防衛隊が対決するという、戦隊ものみたいな展開で、大いに盛り上がります。私は、カスカベ防衛隊がスーパーヒーロー化しちゃうところで、何となくついていけなくなったのですが、ここは好みの問題なのでしょう。私としては、フツーのままのしんちゃんでドタバタを思いっきり見せてくれた「嵐を呼ぶジャングル」のクライマックスが好きなのです。

そして、ラストはまた元の世界に帰ってくることになるのですが、さんざんドタバタをやった後に、映画館のシーンで、またオープニングのスリラータッチに戻すあたりがうまいと思いました。プロローグとエピローグをスリラータッチでまとめたことで、物語全体に一編の怪奇小説のような味わいが出ました。そして、その発端となった映画館の正体を説明しきらないところで、一種の都市伝説か怪談のような味わいを忍ばせることに成功しています。ドタバタの部分で今イチ乗り切れなった私もこのラストで大いに満足してしまいました。ちゃんと私のような大きなお友達へのサービスも忘れていないようです。ラストをちゃっちゃと終わらせずに丁寧に見せたところが買いです。

西部劇の部分では、私は西部劇映画にくわしくないのですが、ジャスティスという男は明らかにジョン・ウェインを意識してますし、その部下にクラウス・キンスキーみたいのがいて、リンチシーンはマカロニ・ウエスタンのノリですし、色々と趣向は盛り込んであります。それをどう料理しているのかというところでは今イチの感がありました。また、列車チェイスの行き着く先のオチも、私には「うーん」って感じでした。ただ、西部劇の町の少女としんちゃんの淡い恋物語はよかったですけど、これも西部劇というよりは、映画の世界へ取り込まれるという設定の方から生まれたエピソードでしょう。

最後に、芸人NO PLANを登場させたのは、まるで意味なしで、登場そのものがノープランではないかしら。エンドクレジットもいい歌なんだけど、NO PLANが音痴なので、台無しという感じです。これも内村プロデュースの延長だとしたら、映画が画竜点睛を欠いた責任はウッチャンてことになるのでしょうね、きっと。


お薦め度×毎度の安定した面白さとアクションが見もの。
採点★★★☆
(7/10)
プロローグとエピローグの短編スリラーの味わいがちょっとお気に入り。

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