written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
パリにやってきた中国警察のリュウ(ジェット・リー)は、フランス警察のリチャード警部(チェッキー・カリョ)に麻薬の取引の現場へと案内されますが、そこで中国側の大物が居合せた娼婦にさされてしまいます。事、一大事と現場に向うリュウですが、今度はリチャードの銃口がリュウを狙います。全ての黒幕はリチャード警部で、そのおかげでリュウはイカレた殺人鬼として指名手配されてしまいます。一方現場に居合せた娼婦の一人ジェシカ(ブリジット・フォンダ)と知り合いになるリュウですが、リチャードの魔の手をそんな二人に容赦なく襲いかかってくるのでした。パリでフランス警察を敵に回して、孤立無援のリュウに勝ち目はあるのでしょうか。
リュック・ベンソンが製作と脚本を担当して、若手のクリス・ナオンが監督したフランス映画です。ベンソンが噛んでいるせいかどうかはわかりませんが、全体の雰囲気は、「レオン」「ニキータ」という感じ。主人公は四面楚歌で、警察は敵だし、相手方はマシンガンを撃ちまくる頭のイカれた皆さんなんです。こうなると、リアリティも何もない、何でもありの世界になるわけで、観客もそれに乗れないとついていけない展開となります。
今回はジェット・リーを連れてきたということで、カンフー主体にアクションシーンが相当あります。リーの前作「ロミオ・マスト・ダイ」は敵対する組織のドラマに時間をかけすぎて、リーのアクションがほんの少しという期待を裏切るものだったのですが、今回は、たっぷりとアクションシーンを見せてくれるのがまずうれしいです。彼のキャラクターはマジメな堅物刑事で、さらにむちゃくちゃ強くて、頭も切れるという、いわゆるスーパーヒーローみたいな役どころです。コミカルで弱そうで、最後は結構強いというジャッキー・チェンとは違いまして、シリアスな東洋の神秘という感じなのです。人間味を出そうという趣向か、娼婦のフォンダとの絡みに若干のユーモアを感じさせますが、基本は超シリアスなドラマなんです。なぜ、シリアスに超がつくのかというと、悪役も超悪くて、超イカレてるのですよ。一歩間違えると、お笑いになってしまう、悪党リチャード警部をチェッキー・カリョが、最後までシリアスに見事に演じきりました。この人、コメディもやれば、思慮深い脇役もやれる器用な人なんですが、「ドーベルマン」で見せたブチ切れ悪党ぶりが、今回はさらにパワーアップして、さらに奥行きのあるキャラクターにまでなっています。
一方、ブリジット・フォンダが、70年代風の娼婦スタイルで薄幸のヒロインをこれまたシリアスに演じているのが見物です。この人も「シンプルプラン」のようなシリアス人間ドラマから、パロディ風怪獣映画まで出てしまうという、仕事を選ばない人なんですが、こういう役どころをマトモに演じて、かつ単なる主人公の引き立て役に終わらないあたりがさすがです。設定、展開とも荒唐無稽もいいところなんですが、登場する演技陣のおかげで、それなりの説得力が出ました。とはいえ、火薬と銃弾の物量のものを言わせて、徹底して派手な見せ場をつないでいくというのは、10年前くらいのアメリカ映画みたいで、今こういうのを見せられてしまうと、いささか古さも感じてしまいました。
クライマックスは、敵地に乗り込んだ主人公が、相手を次から次へとやっつけていくという、ヒネリはないけど、迫力あるシーンとなりました。小柄なリーが、でかい白人をバッタバッタと倒していくあたりはカタルシスを運んできますが、香港映画のような、ここで怒りの大爆発という、大見得を切るところがないのがちょっと残念でした。また、アクションシーンは、ミュージカルのダンスシーンと同じで、全身をフレーム内に収めて、かつカット割はできる限り少なくして欲しいのですが、シネスコの画面にリーのアクションを収めきれていないのは減点で、「ロミオ・マスト・ダイ」でも思ったのですが、そういうことは香港映画の方が優っているのかもしれません。
ドラマとしては、ほとんど状況説明なしに、フランス警察とリチャード警部が悪者だと印象付けてしまい、後はシンプルな追跡アクションにしているあたりは、うまいと思いました。後、面白いと思ったのは、「ロミオ+ジュリエット」のクレイグ・アームストロングが担当した音楽で、エリック・セラの「レオン」をかなり意識した音作りになってましたが、要所要所で、オーケストラの厚みのある音を入れて、さらにドラマチックに盛り上げているのが見事でした。今、アクション映画の音をつけて、一番ハズレがない人ではないかしら。ともあれ、ドラマ的には薄いこの映画を、役者と音楽が盛り立てているという印象でした。
お薦め度 | ×△○◎ | 強引な話をジェット・リーのアクションで逃げ切り。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 役者、アクション、音楽などは1級品なのに、映画としては薄い。 |
|
|