ホテル ルワンダ
Hotel Rwanda


2006年01月22日 神奈川 川崎チネチッタ7 にて
事実に基づく感動の物語、でも怖いのが先にたつお話。


written by ジャックナイフ
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ルワンダでもともとあったフツ族とツチ族の対立は、ここを属国としていたベルギーの統治政策もあって、大きなものとなっていました。そして、1992年に大統領暗殺を契機として、フツ族民兵によるツチ族の虐殺が始まり、100万人もの犠牲者が出るに至ります。そんな中で首都ギガリのホテル支配人のポール(ドン・チードル)は自分の妻がツチ族でもあることから、できる限りのツチ族市民をホテルにかくまい、1200人余の命を救うのでした。

と、いうお話をアイルランド出身のテリー・ジョーンズが監督した映画「ホテル・ルワンダ」は数々の賞をとり、日本でもシネコンでの拡大公開にまでこぎつけました。映画としての見応えもさることながら、つい数年前、隣人の異民族を「ゴキブリ」呼ばわりして100万人も虐殺するという世界が存在したということがショッキングな映画でした。そんな中で、主人公のポールが自分の地位や才覚を駆使し、時には自分の命を盾にして、多くの人の命を救うというのが感動的でありました。勇気とか度胸とかそういうものがまるでない自分にとっては、かなり痛い映画でもありました。こういうすごい人がそうたくさんいるわけじゃないから映画になるんだと思えば、並の人間の慰めにはなるのかもしれませんが。

民族間の紛争というのは、歴史をながめると、昔から今までずっとあるのですが、ルワンダのケースはその中でも特殊なものではないように思えます。ルワンダの虐殺を題材にしたNHKのドキュメンタリーを観たのですが、不気味に虐殺を煽るラジオ放送に戦慄させられたことを思い出します。原始的なメディアによる洗脳とも言えるのかもしれませんが、オリンピックやワールドカップの「行け行けニッポン」と同じようなことが、「ツチ族のゴキブリを皆殺しにしろ」というメッセージとなって市民に届いたというのが大変怖いと思った次第です。もちろん、そこに至るまでのツチ族とフツ族の民族間の対立があり、一時はツチ族の方が優位にあったということもあり、感情的な部分はあるかもしれないとも思えるのですが、それが、ナタや鎌による大量虐殺に行き着くというところは、平和な日本に暮らしている自分には理解しがたいものがあります。でも、昔の日本軍が中国人を度胸試しに殺してたということも考えると自分が集団暴力や殺人を煽られたとき、どうしたら、まず自分が狂気の沙汰から一歩さがって、武器を捨てられるだろうか、というところには考えさせられるものがありました。

この映画での虐殺する側のフツ族の行動について、成り行きの盛り上がりのようなものが感じられたの興味深かったです。政府も軍も止められなくなっている虐殺を見ていると、引き金を引いた連中にももうコントロールできなくなっているようで、これでは、歴史に何を学べばよいのかという気分になってきます。この映画では、主人公や国連平和維持軍の行動に希望を見出すことはできますが、集団の狂気に対して、個人の勇気と善意でしか太刀打ちできないのかというところに余計目な怖さを感じる映画になっています。そうなると、大きな権力が私欲より善意を優先してくれることを期待するしかなくなってしまうのですが。

でも、映画としての見応えは十分で、感動もあります。映画としての出来は見事だと思います。それだけに考えさせられるところの多い映画でもありました。


お薦め度×色々と考えさせる視点をたくさん持った映画です。
採点★★★★
(8/10)
人間は暴走すると誰にも止められない時がある、ってのを再認識。

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