written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
レニー(ジム・ガヴィーゼル)は最愛の妻を交通事故で失います。犯人は殺意を持って妻を轢いたと確信しているレニーはその男ファーゴ(コルム・フィオーレ)を追い求めています。ある日、モリー(ローナ・ミトラ)は友人の車に同乗して家に帰る途中、トンネルの中で事故車に遭遇し、モリーが電話を探しに車の外に出たとき、別の車が友人の車に襲いかかり、友人は殺され、モリーは運転手に写真を撮られてしまいます。友人を失い失意のモリーの前にレニーが現れ、その運転手は自分の妻を殺した男であり、次にモリーが命を狙われると言って、半ば強引に彼女を自分の家に連れてきて、ファーゴへの復讐にモリーを利用しようとするのです。復讐の鬼と化したレニーと、交通事故による殺人を楽しんでいるファーゴとの闘いはいよいよクライマックスを迎えようとしています。
「ヒッチャー」や「インプラント」のロバート・ハーモンが今回は設定の面白さに独特に迫力を盛り込んで、サスペンススリラーの佳作に仕上がっています。タイトルから、事故シーンのカットバックにマーク・アイシャムの不気味なシンセ音楽がかぶるというもので、オープニングの何かいわくありげに車を走らせるレニーの姿につながっていきます。そして、全編に渡って、テンションが落ちない展開は、ハーモンの演出力によるところが大です。
アメリカは車なしでは生活が成り立たないところらしいですが、老若男女がみなドライバーということで交通事故が多いというのも聞いてます。そんなアメリカで、交通事故を装った連続殺人鬼がいたとしたら、という設定は、かなり不気味なものがあります。事故としては公なものとなりますが、それが殺人にならない、ましてや、意図的な連続殺人として認識されないとしたら?そんな怖さを持った設定だけで、この映画、スリラーとしてかなりの点数を稼いでいると言えるのではないかしら。映画の前半で、交通事故に遭ったり、事故で肉親を失った人のサークルみたいのが登場します。自分の精神的ショックを他の人の前で順番に語るというもので、アメリカにはそういうのが実際にあるのかな。アルコール中毒者の集まりもそうですが、苦しみや悲しみを表に出して他人と共有することで、未来への立ち直りを図るというプログラムがあるのでしょうね。
妻が殺されたとき、レニーは、ファーゴを追いかけて、彼の車に自ら激突し、ファーゴを義手義足の車椅子が必要な体にしてしまっていました。でも、ファーゴはそんな体で車を運転し、若い女性ばかり狙って、次々に犠牲者を増やしているのです。ファーゴはレニーが自分を追いかけていること知っており、まるでゲームのごとく、レニーを挑発してきます。さらに、ファーゴは、モリーの乗る車を襲ってきます。カーチェイスシーンが夜間シーンでも丁寧にカットを割ってわかりやすい絵作りをして、最近の映画の中でもかなり迫力のある見せ場になっています。いわゆる普通(といっても、ごついタイプであるのですが)乗用車がリアルな追っかけをやっているのが、迫力をさらに増す効果を上げています。
クライマックスも車同士の闘いになるのですが、車から降りると勝負がつくという一種のゲームの規則のようなものがあって、最後までドキドキハラハラさせられるのは演出のうまさなのでしょう。レニーとファーゴの両方とも正気を失ってる設定が、その闘いの勝敗の行方を混沌とさせています。このあたり、ジム・ガヴィーゼルとコルム・フィオーレの役者の力が大きく、人物描写を極力抑えて82分のタイトにまとめたドラマの中で、きちんとキャラがにじみ出るようになっているのは、うまいと思いました。ラストでダメ押しにちょっとアクセントのある結末をつけて、不気味な余韻を残すのにも成功しています。また、地味目のヒロイン、ローナ・ミトラが意外や印象的な演技を見せて、ドラマの盛り上げに一役買っています。ルネ・オオハシのキャメラは、逆光を使って昼間のシーンに不気味さを取り込むことに成功していますし、車の動きを丁寧なカット割で見せました。マーク・アイシャムの音楽は久々に昔のシンセオンリーの「ヒッチャー」のような音作りが逆に新鮮でした。余計なもののないタイトにまとまったスリラーですが、交通事故という日常的な題材を取り上げたことで、後を引く不気味さを描くことに成功しています。
お薦め度 | ×△○◎ | 交通事故を使った連続殺人鬼というのは、意外な盲点かも。 |
採点 | ★★★★ (8/10) | 設定の面白さにラストの畳み込みを加えると結構評価が高くなります。 |
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