written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
イラクのバグダッドでは、イラク空爆以降、子供の癌患者が異常に増加しています。その原因として、アメリカ軍の使った劣化ウラン弾が挙げられていますが、科学的な因果関係が証明されておらず、公的に劣化ウラン弾が癌を増やしているとは認められていません。白血病の少女ラシャやムスタファ少年には、には十分な治療処置がなされておらず、ラシャは取材の途中で亡くなってしまいます。一方、日本で間接的に被爆して、現在も被爆者医療に携わる肥田医師はアメリカのハンフォード核施設の近辺へ足を運び、そこの住民と会話します。そこでも異常に癌の発生率が高いのです。でも、その因果関係もまた公的には認められていないのです。核施設の出す微量な放射性物質はじわじわと世界中にヒバクシャを増やしつつあるのです。
横浜で毎年行われている横浜平和映画祭というイベントで、それでも通常興行として上映された作品です。この映画祭のいいところは、普通は特別な団体の上映会などしか観られない作品を普通にお金を払って気軽に観られるところにあります。この作品も、何たら団体の講演会付上映会だったら腰が引けて観ないで終わってしまうところを、通常の映画と同じ感覚で観ることができました。
記録映画を手がけてきた鎌仲ひとみ監督の視点は、被曝者の視点に立つことはせず、一般の市民のスタンスで、まずバグダッドの癌病棟をレポートします。そこでは、被曝したとしか思えない子供たちが癌と闘っています。そこから、日本の被曝者に対する興味という展開で物語は長崎、そして、同じ状況にあるアメリカのハンフォードへと移っていきます。妙に気負ったところもなく、例えばイラクの白血病の少年の家族の暮らしをかなり延々と見せたり、ハンフォードの農家の生活を追ったり、生活感のある映像を積み重ねていきます。
イラク空爆が始まってから、明らかに癌患者は増えていると言います。でも、その事は公式には認められていません。でも、劣化ウラン弾は落ちたところにウランの微粉末をばらまくことは事実のようです。実際に劣化ウラン弾が使われた地域での癌患者数はイラク以外でも増えていると言われています。しかし、科学的にはその因果関係は証明されていないのだそうです。確かに科学的因果関係を立証するには、精密なデータと冷静な判断が必要であることは事実です、それが科学的なのですから。でも、その科学が、多くの癌の子供たちを救うことの妨げになっているのかもしれないのです。やはり、科学も政治であり、そこには、政治の後ろには金がつきまとっていることを考えると、貧乏人を犠牲にして金儲けをしている連中の姿が垣間見えてきます。
アメリカのハンフォードにおける核施設に近所に住む人々にも癌患者が多く、ほとんどの女性が流産を経験しているのだそうです。でも、ここでも、核施設と癌の発生の因果関係は立証されていないのだそうです。鉄条網で区切られた向こうは危険でこっちは安全ということになっているというのも驚きでしたが、日本でも、爆心地から2キロという線引きで、お金の出る出ないということがあったそうですから、お上のやることはどこも同じようです。しかし、一方で核施設で働く人々は仕事に誇りを持っているようですし、癌の発生を関係付けるデータはなく、このエリアは安全だと言い切ります。ここで、カメラの視点は不思議と中立に立とうとしていました。事実を踏み越えまいとするのか、あくまで映画を動かすものは、好奇心、興味なのだという視点を崩すまいとするのか、癌と核施設の関係はあきらかだといった主張をしてきません。そこに住む人々のインタビューを中心に今そこにある姿を映し出そうとしています。
と、言いつつ、この映画の言いたいところは明快でして、今、現在も世界のあちこちでヒバクシャは作られていて、それが終わることはないということです。その時、日本の原爆体験はもっと語られ、人々との共通の意識として認識されるべきだと映画は語りかけてきます。見せ方は大変控えめでして、そこから見えてくるメッセージも過激なものではなく、あくまで生活の中の考え方、感じ方に向けられているように思いました。現代の我々を蝕むものは、放射能だけではなく、ダイオキシンかもしれないし、光化学スモッグや煤煙かもしれません。例えば、ダイオキシンで苦しむ人々からすれば、放射性物質なんて大した問題ではないかもしれない。でも、核施設や劣化ウラン弾が、公に認められないまま、癌患者を増やしているらしいという事実には目を向けるべきだというメッセージは結構耳に痛いものがありました。なまじ、原爆の悲惨さとかを前面に出さない構成が、自分の普段の生活感とこの問題は別のものだとは思わせてくれないのでした。
お薦め度 | ×△○◎ | 好奇心こそが真実への興味の第一歩という視点が好きです。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 映画としての評価は今一つでも重いネタをまろやかにまとめた点は評価。 |
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