ヘル・ボーイ
Hell Boy


2004年10月16日 東京 日比谷映画 にて
アメコミヒーローの映画化としては、ま、よくできてるのかな。


written by ジャックナイフ
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第二次大戦中、ドイツ軍はラスプーチンを使って、あの世とこの世をつなごうとしていました。連合軍はあの世へ開いた入り口を何とか塞ぐことに成功しますが、その時、赤いサルのような赤ん坊を発見します。彼はアメリカのFBIの秘密組織で育てられ、超常現象の捜査官としてヘルボーイ(ロン・パールマン)と呼ばれるようになりました。真っ赤な体に角があるその姿はまるで悪魔のようですが、その心はまだまだ十代の若者のそれでした。一方、ヘルボーイは自分の同僚で発火能力を持つリズ(セルマ・ブレア)に夢中なんですが、なかなか想いを打ち明けることができず、リズはその超能力故に悩んでいました。一方、ラスプーチンは現代に蘇り、ヘルボーイを追いかけてきます。一体、ヘルボーイをどうしようというのでしょう。

人気アメコミの映画化というのもどうでもいいことで、後、監督が「ミミック」のギレルモ・デル・トロだというのも、それほどの興味も引きませんでした。ただ、主演がロン・パールマンとセルマ・ブレアというので、観ようかなという気が起こりました。パールマンといえば「人類創生」「薔薇の名前」とかで、ブサイクメイクで有名な俳優。でも、「エイリアン4」とか「スターリングラード」などで善玉も演じてまして、気になる役者さんの一人でした。そして、もう一人セルマ・ブレアもメジャー映画のヒロインを演じるにはクセのある人でして、「キューティ・ブロンド」「クリスティーナの好きなこと」などの助演ぶりが印象的でした。この二人が主演というのは、普通の映画じゃないぞという期待がありました。

実際に映画を観てみれば、その期待は裏切られることはなかったですが、それ以外の部分では、若干の不満も出てしまったという感じです。もともと、美形じゃないヒーローで、かつ饒舌で言うことは辛らつで、グチもこぼすというキャラクターという設定は尋常ではありません。「スパイダーマン」のように自らヒーローであることを選択したわけではなく、そういうふうに生まれついたわけでもない、成り行きのヒーローなのです。その設定をうまくストーリー展開に生かせていないところがあるのはちょっと残念でした。

とはいえ、デル・トロの演出は登場人物のキャラを丁寧に見せることで、そこにそこはかとないおかしさを盛り込むことに成功しています。ヘルボーイの新しい世話係となるルパート・エヴァンズも、一応二枚目風なんですが、どこかはずしたおかしさがありますし、相棒の半魚人はキャラ的に「スターウォーズ」のC3POみたいで、見た目より愛嬌のあるモンスターになっています。一応はヒロインであるセルマ・ブレアも、すんごい悲惨な境遇なのに、むしろ変な奴というキャラクターが前面に出てまして、ヘルボーイとの恋模様も美女と野獣というよりは、割れ鍋に閉じ蓋みたいな関係になるのがおかしかったです。こういった主人公側のキャラクターの味わいに比べると、悪役側は一見派手なメンツを揃えているようで、あまり面白くないんですよ。設定としてはすごい筈のラスプーチンとか、ゾンビ風ドイツ将校とかも、ドラマの中で、キャラが立ってきません。デル・トロが善玉側にかなり屈折した思い入れの入った演出をしているのに比べると、扱いがぞんざいだという印象を持ってしまいました。

ストーリーとしては、主人公の出生秘話みたいな話なので、敵役対ヒーローというストレートな構図にならないのが、若干歯がゆさを感じさせました。シリーズ1作目が番外編という感じなんです。ヘルボーイの活躍パターンというのを描ききれないうちにラストのスペクタクルな展開になだれ込んでしまうのは、原作を読んでいない私にはちょっとしんどいものがありました。

SFXはCGによるモンスターはよく動いてますし、あの世とこの世を結ぶシーンも迫力ある見せ場になっていますが、それよりも、ごついメイクのヘルボーイのキャラが立っているという構成は、パールマンの演技によるところが大きいでしょう。SFXにかすんでしまわないヒーローを構築することに成功しています。

ドラマチックなスコアで定評のある、マルコ・ベルトラミの音楽は今回はあまりメロディが前面に出ない効果音的な扱いだったのは残念でした。さらに活劇シーンで、音楽のボリュームを極端に落としているので、鳴っていることしかわからないようなところが結構ありました。サントラCDで聞きなおしても、印象に残るところがあまりありませんでした。この監督とのコンビでは「ミミック」という見事なスコアがあっただけにちょっと期待はずれといったところです。


お薦め度×設定よりも役者によるキャラの魅力が勝ってまして。
採点★★★☆
(7/10)
設定が複雑な分長いのが今イチ、もっとさっさとやってくれれば。

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