written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
麻薬取締局の潜入捜査官チャーリー(リーアム・ニーソン)は前回の捜査で相棒を失い、自分も死ぬ思いをしてから仕事がいやでたまりません。それでも、今度は、麻薬のマネーロンダリングをしている男フルビオ(オリバー・プラット)との取引をすることになります。しかし、このフルビオ、仲間内でも、サイコキラーと呼ばれるアブない男。精神科の集団セラピーに通い、下痢に耐えながら潜入捜査を続けるチャーリー。ところが、意外やこのサイコキラー・フルビオもストレスに悩み、そして、この稼業から足を洗いたがっていたのでした。浣腸技師のジュディ(サンドラ・ブロック)と知り合い、少しずつ元気を取り戻しつつあるチャーリーが、いよいよでっかい取引に臨むことになるのですが。
麻薬の囮捜査というのは、命がけですよね。その昔「フェイク」でもジョニー・デップがズタボロになってましたもの。この映画でも、冒頭からリーアム・ニーソンがヨレヨレの状態で登場します。もうこんな仕事やってられないって感じですね。でも上司はそんな彼におかまいなくお役所的態度で次の危険な仕事を指示してきます。普通のアクションものなら、先走りアウトロー捜査官が、上司の制止もきかずに事件に飛び込んでしまうというパターンなのですが、今回はその逆です。いつもと違う展開だなと思っているうちに、主人公は精神分析医のもとに行き、挙句は似たような中年男性たちとの集団セラピーにまで出席してしまいます。そこでは、自分の身分や仕事までしゃべっちゃってるんですよ、いいのか潜入囮捜査なのに。
一方、オリバー・プラット演じるマネーロンダリング屋のフルビオは、ボスの娘と結婚したけど、義父にもカミさんにもナメられっぱなし。その上、すぐにキレるものだから、完全にキチガイ扱いされてます。でも、ホントはイタリアに帰ってトマトを作るのが夢だという、アブないヘンな奴なんです。この映画は、このフルビオという男に何がしかの感情移入できるかどうかにかかっているのですが、オリバー・プラットが通称サイコキラーのフルビオを血の通った人間として演じきることに成功しました。
このフルビオとチャーリーが最初は敵対関係だったのが、お互い似たもの同士だったことがわかるにつれて、半分同情、半分好意のような感情を持ち始めるのが面白いところです。他にやりたいことはあるのに、不本意な事をさせられているという共通点が、お互いに親近感を抱かせることになったようなのです。どちらも組織にないがしろにされている存在ということでは、「フェイク」のアル・パチーノとジョニー・デップの関係に近いものもあるのですが、この映画では、男の友情よりも、そのもととなるストレスに重きを置いた描き方をしていまして、その分、コミカルな味わいが先行しています。
確かに、人はそれぞれの社会的な地位に置いて、誰かを演じていると言えましょう。それが、本人の自然体とかなり異なってい場合もあるわけで、そうなると、社会的な自分と、本来の自分との間のギャップが、ストレスとなって蓄積していくというのは、大変納得できます。麻薬組織なんてヤバい話じゃなくても、私のような三流サラリーマンの世界にもあてはまることなのです。この映画の主人公二人の境遇には結構共感を憶える方がいらっしゃるのではないかしら。そして、そんなストレスに悩まされている時に、妙なところで、自分と同じ思いをしている人間と出会うと、それだけで親近感を持ってしまうことがあります。チャーリーがサイコキラーに対して抱いた感情がどう決着するのかは劇場でご確認頂きたいのですが、予定調和とはいえ、後味としては悪くない結末を迎えます。
脚本と監督がエリック・ブレークニーという人で、脚本家としてのキャリアはある人ですが、劇場映画の監督は初めてとのことです。そのせいでしょうか、設定の面白さの割には、趣味に走ったような演出で、お話の展開が弾まないのが、ちょっと残念でした。ラストの処理も、もっと面白くさばくことができたんじゃないのという程度の出来栄えで、特にサブプロットとしてのミステリーの部分は明らかに手抜きでして、娯楽映画の場数を踏んだ監督だったら、もっと面白い映画にできたような気がします。サンドラ・ブロックはプロデューサーも兼ねていて、あまり必然性のない役どころなんですが、むさ苦しい野郎どもの話の中の華にはなっていたように思います。実力派揃いだけど、スターバリューのないキャスティングだけに、スポンサーに出資させるために彼女の出演シーンを足したような印象でもありました。
お薦め度 | ×△○◎ | 目の付け所は面白いし、役者もいいのになあ。 |
採点 | ★★★ (6/10) | 娯楽映画の習作という感じかな。 |
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