written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
田舎のディスカウントストアの化粧品売場、毎日がすごく冴えないって空気が映画が始まるとすぐ観客に伝わってきます。ペンキ屋の夫と、高校を出てすぐに結婚、何も起こらないまま、この町で子供を産んで育てて死んでいくのかと思うと、人生に希望の光なんかあるわけがない。そこに現れた同僚である若い男の子。なぜか、魅力的に見えてしまったのが運のつき、普段から孤独であったヒロインと同じで、周囲から理解されない孤独な境遇だったということから、ますます運命の人に見えてしまったのです。勢いでキスを許せば、その先は見えてるんですが、両親と暮らす彼の家に行くわけにもいかず、ダンナのいる自分の家なんてとんでもない、で、町のモーテルで重ねる逢瀬、ただし金はヒロイン持ちというのが、何とも切なくおかしいです。で、この彼氏はやっぱりダメな情けない奴とわかってみると、当然、腰が引けてしまうのですが、男は「君なしじゃ行けていけない。」って、半ストーカー状態、ゲゲッ、とんでもないババを引いたのかって、最初っから、そいつババだよ、と突っ込みたくなる展開が、妙に淡々と描かれるのが笑えないおかしさを運んできます。
ヒロインの普通っぽさ、生活に疲れているというよりは飽きが来ていて、あたしこのままでいいのかしらって思ってしまうのは、よくあるパターンなのでしょうか。まあ、大体は何事も起こらずに「このままでいいのかしら」と思ったことも忘れていくのでしょうけど、彼女の場合はたまたまそこに人生の転機となり得る存在がポロっと現れたわけです。つまんなそうなヒロインの顔に宿る愛と希望の光、でも、それもあっという間にメッキが剥げてしまう、で、もって全ては元の木阿弥となる、なんて話じゃあ、救いがない。でも、この映画は間を外したドタバタの挙句、その救いのない結末を臆面もなく見せてくれます。ラストで、子供が生まれてそれなりにハッピーエンドな筈なのに、ヒロインの顔は映画の冒頭と大差ありません。所詮、運命には逆らえないことへの達観すら感じさせます。夫だって、そんな悪い人間じゃないし、彼女を愛してるんだし、浮気だって許す度量も持っている。彼女だって、そんな夫を愛しているのも事実。でも、だったらどうみても地雷みたいな若造に惹かれることもなかった筈。このあたりの見せ方の意地の悪さはかなりのものと言えましょう。
でも、その絶望的な状況の中で、ヒロインのしぶとさがこの映画の後味を救っているのです。自業自得のこの逆境、最悪の結末を迎えそうなんですが、結局、全てを丸くおさめてしまうあたりが、かなりおかしかったです。でも、本人は自分のしぶとさに対しては鈍感で、結局満たされないままエンディングを迎えてしまうのは、気の毒な気もする一方で、ひょっとして、自分もあんな感じで生きてるのかなって気がしてくるのが不思議です。
何と言っても、この一見つまんなそうで、その実相当にしぶといヒロインを演じた、ジェニファー・アニストンが見事でした。キャリアウーマンみたいな役どころが多くて、こういうくたびれた主婦のイメージから遠かったのですが、ここでは、見事なまでに生活感を漂わせ、周囲への感度が鈍ってしまったヒロインを、ホントに面白おかしく演じきりました。何度も登場するトボトボと歩く彼女の姿がものすごくおかしいのですが、ここは本編でご確認下さい。日々の生活にうんざりしている彼女が、とんでもないダメんずと、勢いで体の関係になってしまうのですが、それでも変わり映えのしない毎日を続けていくというところが、何とも痛いおかしさを運んでくるのです。毎日がつまらないけど、何か大きな変化なんて希望できないよねって達観している、私のようなくたびれ系の人には、彼女の仏頂面は他人事ではない、やな共感を呼んでしまいます。
彼女を巡る脇の面々もみな好演でして、唯一善意の存在として登場するダンナ役のジョン・C・ライリーはむしろ損な役どころですが、よくドラマを支えています。ヒロインの同僚を脚本を書いたマイク・ホワイトが演じて不思議な印象を残してますし、店長役のジョン・キャロル・リンチとか、ダンナの友人役のテイム・ブレイク・ネルソンと言った曲者陣も好演しています。何より、ダメ若造を演じたジェイク・ギレンホールが傑作でして、ちょっと暗めの二枚目で文学青年っぽさが、ヒロインの心を捉えるんですが、これが、単に陰気な自己チュー男だったというありがちなキャラを思い切りデフォルメして怪演しています。大体、並のセンスだったら目一杯引いちゃうであろう、このキャラに結構まともに付き合うヒロインってのは、かなりタフだと言えましょう。余談ながら、この映画を観た直後に、彼がまともなヒーローを演じている「デイ・アフター・トゥモロー」を観てしまいまして、いつブチ切れて泣き崩れるのかと別の意味でハラハラしてしまいました。
お薦め度 | ×△○◎ | 何とも言い難いおかしさが最後まで持続するのがうまい。 |
採点 | ★★★★ (8/10) | ジェニファー・アニストンはこの線でいけそうな稀な才色兼備。 |
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