written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
1954年のゴジラ襲来で首都は大阪に移転し、原子力発電は凍結され、ゴジラ対策チームも編成されました。戦闘部隊Gグラスパー隊長辻森(田中美里)はゴジラに殺された上官の弔い合戦として、ゴジラを目の敵にしています。そして、ゴジラを消滅させるためにブラックホール発生装置が開発され、実験は成功をおさめます。その実験で時空に歪みが生じ、大昔の昆虫メガヌロンが渋谷に大量発生します。渋谷は水没し、その水底には、巨大なメガギラスが潜んでいたのです。果たしてブラックホールをぶつけてゴジラを消滅させようというムチャクチャな作戦が成功するのでしょうか。
去年の「ゴジラミレニアム」は、評判も今イチなら、お客の入りもよくなかったのですが、それでも、21世紀の始まりにゴジラが登板することとなったのは、そうでないと、お正月だよドラえもんになってしまうからでしょうか。今回は、またこれまでのシリーズの設定をまるっきり無視して、昭和29年の第1作の続編ということで、首都は大阪、1966年に原発を再襲撃したおかげで、核エネルギーは封印されている世界です。でも、ゴジラがまた来たら大変だということで対ゴジラの戦闘部隊がいます。その隊長は女性でかつての上官をゴジラに殺されています。メガヌロンは単体では人間を襲い、集団で現れて、でっかいトンボになった後は群れを成して、ゴジラを襲います。
ん?これって、平成ガメラのパロディなのかな、Gグラスパーってのは、平成ゴジラのGフォースのパロディなのかしら、と、ツッコミ入れたくなってしまうのですが、どうも基本設定を一新している割りには、趣向があちこちからのパクリに見えてしまうのですね。それにドラマの中のゴジラがすごく居心地悪そうなんですよ。ヒロインにとってはゴジラは先輩の敵なんですけど、今回のゴジラはあまりキャラクターが与えられていないので、ヒロインの意気込みのぶつけどころがないし、ゴジラは出てみえを切るだけの役なのが気の毒です。
また、今回のドラマの柱はブラックホールを使ってゴジラを消滅させようというものなんですが、メガギラスが本筋に割り込む形になると思いきや、こっちがメインなように比重が高いので、ブラックホールの話があまり前面に出てこないのですね。ゴジラをやっつけるために、ブラックホールを作ろうってのが、ものすごい発想なんですが、なぜそこまでしなきゃいけないのかというところがよくわからないですし、それの副作用もすごそうなんだけど、そのあたりもおかまいなしというのが、楽観的なのかアホなのか、狙ってるのかマジなのか、ウルトラシリーズの1エピソードならともかく、お金をとって見せる劇場映画としては、もう少しなんとかしろよと言いたくなってしまいます。それに、メガヌロンを引っ張り出したブラックホールなら、使用禁止にしないとまずかろうにとも思うのですが、そのあたりも無頓着なのが、すごく頭悪そうなんです。
こういう突っ込みどころ満載の物語でも、役者や演出によって結構盛り上げることは可能です。実際、1960年代のゴジラシリーズは嘘でも観ている間は、その嘘に乗ることができて、映画を堪能できました。先日も第1作の「ゴジラ」を劇場で観る機会があって、「やっぱり、映画館でみると盛り上がるし、面白いや」と実感したばかりなので、今回のゴジラには文句つけたくなってしまいます。せめてヒーローやヒロインを立ててくれれば映画としては締まりが出るのですが、ヒロインの田中美里は、戦闘隊長としての威厳が不足していて、天海祐希あたりがやったらもっと説得力が出たのかもしれません。また、相手役の谷原章介にも生彩がなくて、このあたりは、平成ガメラシリーズのヒロインの立て方をパクって欲しいと思いました。ゴジラファンの間ではかなり評判の悪い作品に「ゴジラVSスペースゴジラ」というのがあるのですが、この方がヒーローとヒロインがきちんと描かれていて、まだドラマとしてのまとまりがあったように思います。
とはいえ、特撮部分の技術の進歩はすごいものがあります。特殊技術とは別に、視覚効果のスタッフがものすごい人数クレジットされてますが、確かに、トンボ怪獣の群れや、水没した渋谷などの描写は見事ですし、移動カットでのゴジラと実景の合成も違和感がありません。それらの技術サポートをドラマとして盛り上げることができなかったというのが問題でしょう。ドラマとしての盛り上げなら、「クレヨンしんちゃん劇場版」の方が数段まさっていますもの。
ともあれ、映画としては一応の決着がつくのですが、エンドクレジットの後におまけがつくのです。これが、はっきり言って全部ぶちこわしというとんでもエピローグでして、こんなことしてるとホント、ファンも見放しちゃうよ。ヒロインのアップのストップモーションにエンドクレジットが出るあたりのセンスをいいと思ってたら、ちょっとひどいよなあ。と、何に毒づいているかは、エンドクレジットを最後まで観てくださいね。これまでのゴジラシリーズだと、「次回作製作決定」といった字幕が出るのですが、今回はちょっと違うのですよ。ただ、大島ミチルによる音楽だけは新しいゴジラのテーマを創造したという点でかなり評価できると思います。
お薦め度 | ×△○◎ | なんかウルトラシリーズの1エピソードみたい。 |
採点 | ★★☆ (5/10) | ゴジラおもちゃにし過ぎじゃないか、何かカワイソー。 |
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