written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
世界は今や怪獣の異常発生の時代です。ミュータントを中心に地球防衛軍が組織されています。ある日突然、世界各地に怪獣が一斉に出現、それらはひと暴れした後、謎のUFOがそいつらを吸い上げていきます。UFOに乗っていたの連中はX星人と名乗り、その参謀(沢村一輝)たちは、地球に妖星ゴラスが迫っていると言います。それに不審を抱いたミュータント兵士の尾崎(松岡昌宏)や生物学者の音無(菊川怜)らは、彼らの正体を突き止めようとします。正体を現したX星人は地球を征服すべく攻撃をしかけてきます。怪獣もミュータント兵士もみんなX星人に操られてしまい、もはや人類の運命は風前の灯火、そこで、尾崎たちは彼らに唯一対抗できるもの、ゴジラを南極の氷の中から甦らせようとするのですが。
ゴジラシリーズの最終作ということで、大々的に宣伝された映画です。監督に北村龍平というアクション映画で評判の人を持ってきて、これまでのゴジラ映画とは違うものを作ろうとしたようで、確かにこれまでのゴジラ映画とはかなり異なる味わいになってます。特に、「マトリックス」風の宇宙人とミュータント兵士のアクションが前面に出てきまして、オートバイ対決あり、戦闘機バトルありと、ハリウッド映画の趣向をかなり盛り込んだ、よく言えば無国籍アクション、悪く言えばハチャメチャな映画に仕上がりました。2時間余というこれまでのゴジラ映画の最長なんですが、早い展開と見せ場の連続で、長さは感じさせません。じゃあ、面白い映画なのかと言われると、「うーん」という感じなんです。突っ込みどころが多いのはこういう映画だから仕方ないにせよ、どうもこれまでのゴジラ映画との違いが私のようなゴジラ映画の常連にはなじめませんでした。
基本的に、東宝のゴジラシリーズは設定はハチャメチャでも、映画としての作りはマジメが基本です。クソマジメという言い方もできるかもしれませんが、変化球勝負をしないで、一つのストーリーを正面から語るという作りになっています。ところが今回のゴジラは自由奔放に話が飛び回るのです。それを軽快さと呼ぶこともできるでしょうし、アクションのテンポに合ったドラマということもできるのですが、どうにも座りがよくないのです。特にゴジラを使って宇宙人をやっつけようという展開が妙に軽く見えてしまうのは演出の問題でしょう。物語の部分が弱いのは今回に限ったことではないのですが、これまではマジメで丁寧な作りでカバーしてきたのだということを改めて認識してしまいました。例えば、テンポよくすることを狙っているのか、カットを飛ばしているような編集が気になりました。ここで、もう一つカットが入る筈だと思っていると、次のシーンに飛んでしまうようなところが何箇所かありましたもの。
また、この映画の中では、名前とか設定にこれまでの東宝特撮映画からの引用をかなりたくさん盛り込んでいます。いわゆる(私のような)昔からの常連さんへのサービスというつもりなのかもしれないのですが、それにしては展開が変。特にラストを「あの」ミニラで締めるってのはどういう神経なんでしょうねえ。ミニラを知らない世代には、何だあのジュゴンの怪獣は?ということになりましょうし、私より若い世代にとってゴジラの息子と言えば、平成ゴジラに出てきたベビーゴジラの方でしょう。基本設定の部分はある程度ゴジラシリーズの予備知識がないとついていけないのに、一方で、そういう知識のある常連さんに対しての気配りは欠いてるように思えてしまうのでした。シリーズ最強怪獣かもしれないヘドラの扱いとか、ゴジラに「マトリックス」アクションさせたりとか、ゴテゴテにデコレーションされたガイガンとかですね。
そもそも映画の設定が、主人公とX星人の総統の二人が怪獣を使ったテレビゲームをやっているみたいなんです。そして、テレビゲームじゃ飽き足らなくて当人同士が肉弾戦に行ってしまうという感じの展開なのですよ。アンギラスとかラドンとか出てきても、あくまでゲームのキャラでしかないので怪獣としての存在感が出ませんし、ゴジラも人間対宇宙人の肉弾戦の決着がついてから、やっと怪獣らしい感じになるのですが、そうなったときにはミニラに場面を持っていかれてしまうので、ゴジラが気の毒になりました。何というか、主人公であるはずのゴジラの扱いがぞんざいに見えるのです。
映画としての作りとしても、不満がありまして、折角のシネスコ画面なのに、やたら狭苦しいアップのカットばかりなのも気になりました。私はこの映画を川崎の最大級のスクリーン(チネグランデ)で観たのですが、ちっとも大画面で観ている気がしませんでした。引きの絵がきちんと押さえられていないという印象なんです。もともと、そういう演出なのかもしれませんが、劇場の大画面よりも、テレビ画面を意識して作られたような映画というのは、やはりうれしくないのですよ。
音楽にキース・エマーソンを引っ張ってくるのはいいのですが、ロックサウンド垂れ流しという感じで、音楽の盛り上がりどころがありませんでした。彼の厚みのあるシンセサウンドでゴジラをやるということ自体はなかなか面白いと思うのですが、折角の彼の音楽が効果音に負けっぱなしだったのは、もったいないと思った次第です。音楽にメリハリがつけられないのは、何より、ドラマとしてのメリハリを欠いているということにもなるのではないかしら。余談ですが、今、夜中のテレビでやっているロボットアニメとか、東宝の特撮ドラマ「幻星神ジャスティライザー」なんてのが、こういうロック垂れ流し風の音楽になってます。こういう音作りは予算の関係だとばかり思っていた私にとって、劇場映画でもこういう音作りがされていたのはちょっとしたカルチャーショックでした。それが今風と言えば今風なのかもしれませんが。(最後はオヤジのグチになってしまった。)
お薦め度 | ×△○◎ | まあ活劇として楽しめる人はいいんだけど、これってゴジラ映画なのかな。 |
採点 | ★★☆ (5/10) | ごひいきさんにも、一見さんにもサービスが中途半端なんだよなあ。 |
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