ゴースト・オブ・マーズ
Ghosts of Mars


2002年07月12日 神奈川 ヨコハマシネマソサエティ にて
火星を舞台にしたホラーアクションウエスタン。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


時は2176年の火星。ある鉱山町で発生した殺人事件の容疑者を護送するために5人の警察官が向います。列車で到着したら、なぜか街には人影がありません。警察に向うとそこにも人影はなく、留置場には何人かの囚人がいるだけでした。ところが建物の中には血痕があったりして、ちょっと変。そして競技場を覗くとそこには首なし死体がいくつも吊るされているではありませんか。いったいここで何が起こったのか。そして、護送警察官は、鉱山で異様な光景を目にします。どうやら、生き残っている連中にも生命の危険が迫ってきていたのです。でも、警察官数人以外は、留置場の囚人です。そして、恐るべき何者かはすでに彼らのすぐ近くまで、姿を隠して迫っていたのです。

1970年代後半からホラーファンタジー系映画をずっと作り続けてきたジョン・カーペンター監督の新作です。「ハロウィン」「遊星からの物体X」「パラダイム」「マウス・オブ・マッドネス」など、予算的には、B級の作品ながら、その個性的なセンスと娯楽映画の枠をはずさない律儀さで、一部にファンを持っている監督です。かくいう私も、彼の映画のファンでして、この人の映画は、アラはあるし、必ずしもスマートとも言い難いんですが、それでも、しぶとい魅力のある映画を作り続けています。今回は、火星を舞台にしたSFという設定なのですが、警察に囚人と警察官が閉じ込められるという設定で、彼の初期の作品「要塞警察」を思わせる設定になっています。と、書き出すとキリがないくらい、この人の映画には色々とツッコミどころ、語りどころがあるのです。

まず火星の都市に自動運転の貨物列車がやって来るところから始まります。囚人を護送してくる筈が中には、女性警察官メラニーが一人だけ手錠でつながれていて、後は無人です。そして、査問会が開かれて、出頭したメアリーの証言によって、回想形式でドラマは展開していきます。前半はいわゆるホラーサスペンスのスタイルでお話が展開していきますが、設定の説明が手際よくなされて、異常事態が発生した火星の街の活劇へとドラマは展開していきます。

護送警察官のチームがなかなかすごくて、ボスが「ジャッキー・ブラウン」のパム・グリアに、ナンバー2が「スピーシーズ」のナターシャ・ヘンストリッジ(かっこいい!)、そして、「ロック、ストック アンド以下略」のジェイソン・ステーサムという顔ぶれ、こいつらがレザーの制服に身を包んで、火星の街に乗り込んでいくところからして、何というか、その「かっこいい」のですよ。映画全体に、「かっこいい」絵が多い映画なんです。タイトルトップで囚人を演じるアイス・キューブも寡黙なアンチヒーローをかっこよく演じています。

さて、ここで一体何が起こったのかが段々とわかってきます。何かにとりつかれた鉱山作業員が怪物化して普通の人間を次々に虐殺し始めたというのです。そのとりつく何物かの正体は最後まで判然とせず、後半は徹底して人間同士の殺し合いとなり、戦争映画か西部劇を思わせる展開となっていきます。怪物化した人間はパンクかメタル系のファッションとメイクで、のこぎり円盤やでっかいスパナといった武器で武装し、殺戮を目的に警察署を包囲してきます。クライマックスは、警察署から、駅までの50メートルほどの距離をどう逃げるかということになり、単純構成ながら、ここでもかなり盛り上がるのです。ラストも笑えるオチのようで、でもカッコいいんですよ。

グロテスクな描写や残酷シーンがあるのですが、それが前面に出て来ないあたりに、演出の妙があると言えましょう。そういうところよりも、迎え撃つメンツのかっこよさとか怪物たちの妙に統一感のあるルックスといったものが引き立つのです。様式美といってもいい、この世界観がカーペンターの映画の大きな魅力になっています。彼の映画は、設定からして非日常的なものが多いのですが、その設定を最小限の説明で納得させてしまうのが、大変うまいです。その確立された世界観の中で、見せ場をきっちりと押さえて、娯楽映画としてまとめあげる職人芸といったものを感じさせる数少ない監督さんです。このうまさは、昔のゴジラ映画に通じるものがありまして、様式美というべきゴジラを見せるために、独特の世界を確立させ、かつゴジラを引きたてることに成功した本多猪四郎の演出に通じるものがあると思った次第です。(こんなことを書くと、コアなカーペンターのファンに怒られそうですけど。)

また、毎度の事ながら、今回もカーペンター自身が音楽を担当していまして、特にメインタイトルがこれまでになく、シンプルで、ビートだけで引っ張る音は、初期の「要塞警察」を思わせるものでした。アンスラックス(よく知らん)が参加したせいか、全編エレキギターがギンギンなりっぱなしのハードロックの音になっています。


お薦め度×全編に渡ってカッコいいんですよ、これが。
採点★★★★
(8/10)
いつまでも変わらぬ老舗の駄菓子という感じか。

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