フレイルティ
Freilty


2002年11月23日 東京 銀座シネパトス1 にて
連続殺人犯の行方を追うと思わぬところに落とし穴。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


「神の手」と名乗る連続猟奇殺人犯の捜査は行き詰っていました。ある雨の夜、FBIをミークス(マシュー・マコナヒー)という男が訪れて、その犯人は自分の弟だと言うのです。そして、彼ら兄弟と異常な父親(ビル・パクストン)との物語が語られます。ミークスが少年の頃、父子三人で暮らすつましい一家だったのですが、ある夜、父親が子供二人を起こして言うのです。「自分は天使を見た。そして、我々は神から、悪魔を滅ばすように指名を受けたのだ」と。そして、父親は神から授かったというリストをもとに、本当に殺人を始めてしまうではありませんか、それも子連れで。半信半疑で話を聞いていたFBIのドイル捜査官(パワーズ・ブース)ですが、それでは、その証拠の死体を確認しようということになるのですが.....。

「シンプルプラン」「アポロ13」などの俳優ビル・パクストンの監督第一作です。いわゆる精神に異常を来たした父親のもとで二人の兄弟がどうなってしまうのかという、極限のホームドラマであり、そして連続殺人というサイコキラーものでもあります。ブレント・ハンリーの脚本は、日常的な光景が一瞬にして悪夢に変わる過程を描き、さらに二転三転の仕掛けを作っています。ストーリーの意外性はある程度までは読めるのですが、その先に「え?そう来るの。」と思わせるオチがぞっとする後味を運んできます。ちょっと仕掛けに凝った感のある脚本を、ビル・パクストンの演出がうまく落ち着かせたという印象でして、ショックシーンを極力排して、じわじわと観客の恐怖を募らせる演出は見事です。唯一のビックリさせられた、犠牲者に父親が触れるシーンもきちんと後半への伏線になっているのには感心してしまいました。

この映画の怖いところは、回想シーンの主人公である少年が狂った父親を愛してるが故、そして他に身寄りもなく、弟を見捨てられないということから、父親の殺人を幇助せざるを得ないというところです。これは一緒のドメスティック・バイオレンスになるのですが、父親はあくまで神の意志に忠実なしもべなのです。神が、少年を悪魔だと言ったときも、それを否定し、悪魔でないことを証明させるために、少年に悪魔を滅ばすことを強要するのです。この出口のない怖さは、最近の映画には珍しいものです。多分、児童虐待度ということでは「ジュラシック・パーク」と双璧ではないでしょうか。少年がだんだん正気を保てなくなってくるのも納得できる展開でした。少年時代の兄を演じるマット・オリアリーの、いかにも普通っぽいおとなしい少年ぶりが、狂気の中の正気を際立たせています。この映画がPG-12という一番弱いながらも、年齢制限付き映画になってしまったのも、この子供を精神的に追い詰めるあたりが引っかかったのかもしれません。

また、弟の方がそんな父親にどんどん接近して、取り込まれてしまうあたりも、淡々と見せるぶん、余計目に怖いシーンとなりました。これが、おどろおどろしい悪魔崇拝とか、血の儀式といった仰々しい話であれば、まだ救われるのですが、日常の信仰の延長線で、殺人を強要されるのですから、こんな話、広いアメリカのどっかで実際にありそうな気がします。そして、この実際にありそうな気がするという予感を裏切らないラストが怖さのダメ押しをしてきます。このあたりは劇場(うーん、短期の単館公開だから難しいかな)またビデオで確認して頂きたいのですが、×××原作の△△△になってしまうのには、かなりビックリでした。

ビル・パクストンは「シンプル・プラン」で見せた凡人の苦悩とは、うって変わった、恐るべきイカれた父親を抑えた演技で見せ切りました。また、悪役の多いパワーズ・ブースがFBI捜査官を神妙に演じ、マシュー・マコナヒーは何かワケあり風のキャラを怪しく演じてみせました。

役者も地味ですし、登場人物も限定された、いかにも低予算という映画なのですが、それでもきっちりとドラマを見せ、エンターテイメントとしても観客を満足させてくれました。地味な内容で、地味な売り方ですけど、見逃すには勿体ない一編と申せましょう。ベテラン、ビル・バトラーのカメラは、フレームを一回り狭めたような絵作りで、追い詰められる怖さをサポートしていますし、ブライアン・タイラーの音楽もオーケストラによる渋めのホラーサウンドでじわじわと恐怖を高めていくのに成功しています。


お薦め度×全編に渡ってじわじわ怖くて後味もゾッ。
採点★★★★
(8/10)
色々な要素を盛り込んでスリラーからホラーへの転換が見事。

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