ラブ・オブ・ザ・ゲーム
For Love of the Game


2000年02月19日 神奈川 平塚シネプレックスシネマ1 にて
コスナーのスター映画、でもそれだけではない。


written by ジャックナイフ
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デトロイトタイガースのベテラン投手ビリー・チャペル(ケビン・コスナー)はひじの痛みと、自分自身のトレード、そして、恋人ジェーン(ケリー・プレストン)との別れという様々なものを抱えながら、対ヤンキース戦のマウンドに上がります。ジェーンは空港で足止めを食うハメになってテレビでその試合を観戦しています。ビリーの胸をよぎるのは、ジェーンとの出会い、そして怪我、リハビリ、彼女とのいさかいといった過去の様々な出来事。タイガースにとっては消化試合でも、彼にとっては様々な思いが交錯するゲームです。7回まで終わってビリーはまだ誰も塁を踏ませていませんでした。え?完全試合になりつつあるなんて。

ケビン・コスナーってそう言えばいつからスターだったんだろうって気がします。「ダンス・ウィズ・ウルブス」の時はスゴイ人だと思っていたのですが、それ以降の映画って、彼を中心に据えたスター映画が多くて、いわゆるナルシスト入ったような映画にしか出ていないという印象がありました。前作の「メッセージ・イン・ア・ボトル」もそういうナルシスト臭がぷんぷんだったのですが、それでも、ヒロインの魅力と絵の美しさで見応えのある映画になっていました。そして、今回は、「フィールド・オブ・ドリームス」の夢よもう一度ということなのか、野球ネタです。それだけでは、あまり観る気もおこらなかったですが、監督が「シンプル・プラン」で見事な演出を見せたサム・ライミというところで食指が動きました。相手役がケリー・プレストンというのも地味なキャスティングですし、コスナーのワンマン映画になっているのなら大ハズレだと思いながらスクリーンに向いました。

そして、結論から申しますと、コスナーのスター映画になってはいますけど、そのスター映画以外の部分で点数を稼いで、映画としてはなかなか面白い作品に仕上がっています。このビリー・チャペルという主人公は野球選手としてはそれなりに実績も人望もあるようなのですが、スターというだけにかなり自己中心的で他人への思いやりは不足気味、それは恋愛についても同じことで、ヒロインに対しての扱いは自分勝手と言っていいでしょう。普通ならこんな男はやな奴として描かれるはずですが、そうならないのがスター映画です。そして、それなりの痛い目をみるべき部分を、うまく予定調和させてしまうのも、スター映画の限界と申せましょう。私、個人的にこういうビリー・チャペルのような男に、こんないい女が惚れてしまうというところが気に入りません。これでハッピーエンドになられては、少なくとも娯楽映画のカタルシスは得られないのですよ。

では、どこが気に入ったかと申しますと、ライミの演出が、主人公を取り囲む人々の善意をうまく汲み上げているところです。特にヒロインの描き方は大変好感の持てるものでした、出会いから一夜を明かすまでの「行きずり感」から、段々ホンキになっていくあたりを、ケリー・プレストンが大変細やかに演じきりました。この人、「エージェント」でトム・クルーズを振り、「恋におぼれて」でマシュー・ブロドリックを振り、「ナッシング・トゥ・ルーズ」でティム・ロビンスを嫉妬に狂わせるという、悪女っぽいイメージの強い人です。でも、あまりこれまで奥行きのあるキャラクターにはなっていなくて、美形だけと、インパクトの薄い女優さんという印象でした。今回は、登場シーンはいかにも軽そうなオネエちゃんで登場しながら、段々とドラマの進行に連れて奥行きのついてくるキャラクターを好演しています。スターが演じるビリー・チャペルというキャラクターに比べると、はるかに生身の女性を感じさせる、リアルな血の通った人間になっていまして、その彼女を主人公としてドラマを追っていくと、恋愛モノとしてもなかなかに見応えがあります。

野球シーンは、まあ、こんなものなのかなという感じで観ていました。私自身、野球にあまり興味なくて、思い入れの部分が理解できなかったからかもしれません。(それでも「メジャー・リーグ」を映画館で観た時は結構興奮して覚えがありますから、見せ方の問題かもです。)コスナーがモノローグで野球解説をしながら試合が進展していくので、わかりやすくはあるのですが、野球は9人でやるものであるという大前提が、画面から伝わって来ないので、物足りなさを感じてしまいました。試合の後半、味方の守備のファインプレーに散々助けられるのですが、それに対するビリーに敬意(もしくは謝意)があまり感じられないのも不満でした。

サム・ライミの演出は、ある試合の1日を通して、回想を交えながら、主人公の人生の岐路を見せるという構成を手際良くさばいたという印象でした。それでも、スター映画としての体裁を壊さないようにしながら、要所要所で脇の人間にスポットライトを当てる瞬間を作って、ドラマに奥行きを与えること成功しました。映画で悪役を演じることの多いブライアン・コックスが今回は珍しくいい人を演じているのが意外でした。「コナン・ザ・グレート」など活劇で勇ましい音をつけるベイジル・ポレドゥリスの音楽は、今回は意外や控えめに人間ドラマとしての音作りをしているのが印象的でした。野球シーンでも活劇風な音は抑え、主人公とヒロインのラブストーリー部分でも、オーケストラによるシリアスな音楽でドラマを渋くサポートしました。


お薦め度×野球好きな人はそれなりに楽しめると思います
採点★★★☆
(7/10)
ヒロイン中心にしたラブストーリーとして見応えあり

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