written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
銀行のセキュリティ責任者であるジャック(ハリソン・フォード)の家に、ビル(ポール・ベタニー)率いる武装した男たちが押し入ってきて、奥さん、娘、息子、犬を人質にとってしまいます。ビルは、ジャックに銀行システムを操作して金を盗めと強要してきます。ジャック一家は徹底的な監視下におかれていて、出し抜こうとした試みはことごとく失敗、ビルは部下でも平気で殺す冷血漢とわかって、もう逆らいようがありません。ところが、銀行の合併が進んでいて、システムをジャック一人で操作できないとわかって、ビル一味の計画が狂ってくるのですが、家族の命を握られているジャックは、ビルに従わざるを得ないのでした。
札束抱えて走り回るのが銀行強盗のイメージなんですが、今や大きなヤマを狙うならコンピュータ上のデータです。実際、カードで振込みやってみると、もはや現金なんて存在しない現実を実感しますもの。やはり、今の時代、でかい金を狙うなら、銀行のセキュリティ責任者を狙うなんてのは結構説得力があります。そして、家族を人質にとられたジャックはビルに協力せざるを得なくなり、ついには顧客口座の金をビルの口座に送金してしまうのです。しかし、それで無事に帰してくれるほどビルも甘くないわけでして、果たしてジャックは家族を救うことができるのかというサスペンスになります。
TV映画での活躍が多かったというリチャード・ロンクレイン監督はメインストーリーだけを丹念に追う演出でドキドキハラハラを持続させることに成功してます。前半、ビルを出し抜こうとしてことごとく失敗したジャックの反撃が、腕力勝負だったというのは意外な面白さがありました。窮鼠猫を噛むという展開をすんなり受け入れらたのもロンクレインの演出の手腕でしょう。ただし、その分、脇のアラン・アーキン、ロバート・フォスター、ロバート・パトリックといった曲者役者連を使いこなしきれてないのがもったいなかったです。奥さん役のヴァージニア・マドセンにも見せ場がなかったし。唯一、メアリー・リン・ライスカブ扮する秘書のジャネットの間をはずしたコミカルなキャラが印象に残りました。
ポール・ベタニー扮する悪党のビルは大胆不敵で、そして残忍で強欲。この強欲さがジャックに逆転のチャンスを与えるあたりが面白かったです。この類の犯罪映画はラスト近くで悪党側が自滅していくというパターンが多いのですが、この映画では自滅しそうでしぶといので、クライマックスの肉弾戦まで緊張感を維持することに成功しています。クライマックスのアクションは重量感があって最近の映画の中ではかなり点数高いと思います。
この映画のプログラムに、犯罪の手口について、ある程度はリアルに描いているものの、犯罪カタログにならないよう、実際には不可能なやり方を見せているとありました。私もコンピュータ関係の仕事をしてるので、こんなセキュリティのゆるいシステムはあり得ないと思ったのですが、そこには、お話としてのリアルさに留めておく必要があったようです。セキュリティ責任者一人押さえたら、客の金を好き放題にできるシステムだったら、とても使い物になりませんものね。ただし、悪意を持ったセキュリティ責任者がその権限と技術力をフル活用したら、ひょっとしたら?と思わせるところもありました。
ハリソン・フォードが、ティーンの子供を持つ親には老けすぎだとか、強すぎるとか、あまり評判はよくないですが、二転三転するストーリーや、無理のない伏線の張り方など、娯楽映画としてはきちんとまとまってまして、サスペンスアクションとしては佳作の部類に入るのではないでしょうか。映画館まで足を運んだら、このくらいの面白さがアベレージになって欲しい思うレベルの映画です。ところがこの映画のレベルがなかなかアベレージにならないのがこまりものなんですが。個人的な好みで言えば、同じように家族を人質をとられる設定の「ホステージ」より、こっちの方を買います。
この映画の音楽を担当してるのが「ホステージ」や「スズメバチ」で重厚なオーケストラサウンドを鳴らしたアレクサンドラ・デプラでして、サントラCDも出ています。今回は、オーケストラを使った音なんですが、よりハリウッドのサスペンス音楽らしく、シンセも交えたパーカッシブな音が中心です。ドラマの流れをフォローしてサスペンスを盛り上げる音作りはさすがでして、特に前半、ジャックがビルを出し抜こうと悪戦苦闘するバックに流れるドラマチックな音が印象的でした。ただし、メインタイトル曲が彼のオリジナルでなく、マッシブアタックの「エンジェル」でして、これは彼の采配によるものなのか、不本意な挿入なのか気になるところです。IT犯罪のオープニングとしては、この選曲はピッタリなんですけど、デプラなら自力でそういう曲を書けそうな気がするのです。
お薦め度 | ×△○◎ | 定番のようで細かいところに気配りされてるのがマル |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 主人公の悪戦苦闘がハラハラドキドキの展開を生んで、ラストの格闘も渋い |
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