小説家を見つけたら
Finding Forrester


2001年3月10日 静岡 静岡ミラノ2 にて
一つの出会いと別れが若者と老人に残したもの。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


ブロンクスの高校生ジャマール(ロブ・ブラウン)はバスケットボールがうまくてかつ文学少年でした。彼は学力テストの成績のおかげで、名門私立校へのキップを手に入れます。もちろんバスケの選手であることが条件ですが。一方、学校の近所に住む謎の隠居老人(ショーン・コネリー)と知り合います。この老人、実はたった一冊だけのベストセラー作家ウィリアム・フォレスターだったのです。フォレスターの指導を受けることになったジャマールは、転校先でバスケと文章の両方で頭角を現すのですが、作文コンクールに提出した彼の文章が思わぬ事件を呼んでしまうのです。

ショーン・コネリーという俳優さんは、「薔薇の名前」あたりから、どうも胡散臭いじいさんになってしまったような気がします。何でもかんでもお見通しという、あまりお近づきになりたくない、完璧なキャラクターという役柄が多いように思えるのです。特に娯楽映画でそれは顕著で「ザ・ロック」「エントラップメント」「アベンジャーズ」などのコネリーは、とても普通の人とは思えないキャラクターを楽しそうに演じています。ですから、今回もまた胡散臭いオヤジを得意満面に演じていたらやだなあという予感がありました。何しろ、アパートの窓から双眼鏡で覗いている謎の男として登場するわけですからね。いつものコネリーだったらご勘弁だなあって思っていました。

ところが、今回はちょっと違うのですよ。変わり者の隠居らしいですし、若い者の薀蓄をたれるあたりは、いつもの完璧キャラのように見えるのですが、その態度にどこか人間的な弱さを感じさせる、リアルなキャラクターになっています。達観したようなところもなく、かといって諦めに逃げ込んでいるわけでもなさそうな、フォレスターという作家を、血の通った人間として演じているのです。人との関わりを避ける変わり者のじいさんが、ジャマールに誘われて、ヤンキースの試合を観に行くのですが、人波に呑まれてダウンしちゃうあたりの心細そうな顔はこれまでの映画では見られなかったコネリーの新局面と言えそうです。

一方のジャマールは、バスケもすごいし、文才も抜群という、凡人の私からすれば嫉妬心がムラムラくるような奴なんです。これで順風満帆だったら、神様、ひいきが過ぎるぞと言いたくなるような奴。そういう嫉妬心を持つ私の了見が狭いと言われたらそれまでなんですが、ジャマールには、彼なりに、私のような凡人と違う、天才のレベルでの葛藤があるようです。凡人である友人や兄との関わりですとか、転校先で知り合ったアンナ・パキンちゃんとの恋愛模様とかですね、色々と悩み多き上に、出る杭は打たれるってのがアチラの国にもあるようでして、その文才を分不相応と思われてあらぬ疑いをかけられてしまうのです。高校の教師が、ジャマールの文章はどこからかのパクリじゃないかと疑いを持って、彼のコンクールに提出した文章を無効にしようとするのですね。このあたりはすごい理不尽な展開になるのですが、最終的には、一応のハッピーエンドになります。

ただ、この決着のつけ方にはどうも釈然としませんでした。要は、ベストセラー作家であるウィリアム・フォレスターが自らが、ジャマールにかけられた疑いを晴らそうと出張るのですが、結局、フォレスターのネームバリューが、高校教師の権威を上回ったから、勝ったというような展開なんです。要は、「水戸黄門」と同じで、最後に葵の御紋を見せると、田舎の悪代官含めて、周囲は「へへーっ」となるわけです。でも、名作家が人間的に優れているとは限らないですし、ウソをつかないとも限らない。真実は、その人のネームバリューで決まるものではないと思うのですが、この映画はどうもそんな感じになってしまうのです。素直に観ていれば、気にする方が天邪鬼なのかもしれないのですが、前述のように、才能恵まれ過ぎのジャマールにやや嫉妬心を持つ私からすると、この結末は、正しいことをしてるんだけど、やり方はまっとうじゃないように思えてしまうのでした。

それでも、この映画が嫌いになれないのは、フォレスターという人間が、賢くてユーモアのセンスがあるけど、心の中のキズを一生懸命隠しながら、貝のように生きてきた、それがジャマールとの出会いによって、再度、外の世界に踏み出そうと決心する、という展開が、うまいからです。また、最終的には、フォレスターもジャマールも、改めて自分の道を自分で選ぶというところを、きちんと見せるというのも好印象でして、前述の釈然としない展開にも関わらず、後味のよい映画に仕上がっています。

ガス・ヴァン・サントの演出は非常に手堅いもので、ドラマの重心はあくまでジャマールにあるので、コネリーの存在感が際立たないように、うまくバランスをとっているという印象でした。脇役では、ジャマールの兄を演じたバスタ・ライムスがいい味を出していました。


お薦め度×2つも才能を持つ主人公がうらやまし過ぎ。
採点★★★☆
(7/10)
やはり最後は自分が選択するしかないよね、自分の事だもの。

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