ファイト・クラブ
FIGHT CLUB


2000年01月09日 神奈川 横浜東宝エルム にて
ブラピ主演のおビョーキバイオレンス?うーん、とりあえずビョーキ。


written by ジャックナイフ
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自動車会社に勤める主人公(エドワード・ノートン)は極度の不眠症でお悩みです。そこで病気の人のセラピーの集まりに通い始めました。病気の人に不幸の告白を聞いて盛りあがっているうちに不眠症は回復。でも同じようなマーラ(ヘレナ・ボナム・カーター)という女性が現れてまた再発してしまったところへ、タイラー(ブラッド・ピット)と知り合いになります。お互いに殴り合うことなぜか意気投合した二人は、同好の士を集めてファイトクラブなる殴り合いサークルを作ります。以降、主人公の調子は絶好調、もう病人のセラピーに出る必要もないなと思っていると、だんだんとタイラーの行動が過激化していくではありませんか。単なる不眠治療が発端だったのに何なの?この血生臭さは。

「セブン」「ゲーム」のデビッド・フィンチャー監督がまたしても仕掛けた「ファイト・クラブ」ですが、予告編を観た限りではどういう映画なのか今一つよくわかりませんでした。そして、そのよくわからないまま本編に臨んだのですが、オープニングはなんだかコメディみたいです。主人公が消費文明に飼いならされてその挙句に不眠症になってしまっています。そこで医師に薦められて睾丸癌患者の集団セラピーに出席します。お互いに自分の不幸を告白し合い、それを聞き合うことで癒しを見出す集会です。そこで他人の不幸を聞いて興奮し自分も涙を流してしまうとあら不思議よく眠れるではございませんか。そこで、あっちこっちの病気セラピーに顔を出すようになるというのが、結構笑えます。当の患者さんにとっては怪しからん奴なのですが、自分がダメージのない世界で他人の不幸に共感し涙するってのは、最近のテレビの「不幸告白番組」の繁盛ぶりからしても、結構なストレス発散の娯楽なのかもしれません。

ところがそんな集団セラピーの掛け持ちをしているもう一人の偽患者マーラの存在で結局不眠症が再発してしまいます。さすがに同じようなのを目の前にすれば多少の罪悪感が生まれて他人の不幸に没頭できなくなってしまうのでしょう。そんな時に知り合ったのがタイラーという石鹸を作って売っているという男、彼にそそのかされて、殴り合ったらこれがすんごくよかったというのは、今イチぴんと来ないのですが、この後、彼と殴り合うことで彼は充実した日々を送るようになります。

私は実は人を殴ったことはありません。体罰のレベルで殴られたことはありますが、喧嘩で殴られたこともないです。そんな私には、この映画の本質は読めないのかもしれないです。ただ、殴る殴られることで生きてる実感を得ているように見えるファイトクラブの面々が段々と反社会的な方向に走り始め、歯止めがかからなくなっていくあたりは、ゾっとさせるものがありました。人間はいつも有形無形の不満憤懣といったものを常にかかえているものですが、その実体をなかなか認識できません。ところがこのファイトクラブ、いやタイラーはファイトの中からクラブの面々の怒り引きずり出し、見事に方向付けを行っていきます。一見マンガみたいにファイトクラブの面々がタイラーのコマンド部隊と化していくのですが、その不気味なリアリティがブラックコメディのような物語に影を落しています。

そして、後半ドラマにちょっとした仕掛けがあることがわかってくると、物語はさらに不気味な展開を帯びてきます。どうやら、タイラーは最初から主人公に計画的に接近してきたようなのです。一体、タイラーが何を企んでいたのかは、劇場でご確認下さい。前半の主人公の一人語りや、タイトルバックから始まるデビッド・フィンチャーらしい、視覚的な仕掛けが後半への伏線になっているあたりは、「ゲーム」よりさらにゲーム感覚にあふれていますし、悪意に満ちたアソビ心は「セブン」を凌いでいると言えましょう。ただし、その急展開はドラマの語り口としてはぎくしゃくしたものがありまして、2時間19分の後半がやけに長いという印象を持ってしまいました。

ブラッド・ピットは正体不明のタイラーという男を楽しそうに演じきっています。これまで彼の演じたキャラクターの中では一番存在感が希薄なものかもしれません。一見カリスマ性に満ちた男にようでいて、実体はさっぱりわかりませんし、何だか伝説と共に語られる謎の男です。一方の主人公を演じたエドワード・ノートンは現代人のリアリティを全て持ち合わせたような男を飄々と演じています。意外だったのが、ヘレナ・ボナム・カーターで何で彼女がこんな映画にと思ってしまうような、変な役どころなのですが、コスチュームプレイで映える彼女のルックスは現代劇では、リアリティが危うげになって、役に見事にはまりました。

人はいつも胸の中にある不満や怒りを抑圧して日々を送っています。もし、自分の周囲の人間が同じ不満や怒りを抱えているとわかりあってしまうと、そこには連帯された怒りが大きな力となって蓄積されていきます。もしも、誰かが連帯された怒りのパワーをまとめて特定の方向に向けさせたら? この映画の本筋ではないのかもしれませんが、その怖さが私をとらえて離さない不気味な一編となりました。


お薦め度×最後は超自然現象まで行っちゃうのには唖然。
採点★★★☆
(7/10)
仕掛けの面白さ以上のものは前半にあり。

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