氷の接吻
eye of the beholder


2000年03月19日 静岡 静岡ミラノ2 にて
追う方追われる方どっちもイカレてる犯罪ラブストーリー。


written by ジャックナイフ
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英国諜報員(ユアン・マクレガー)は、ボスの息子の挙動を追ってくれと頼まれて、彼を尾行すると、ある女(アシュレイ・ジャッド)と一緒に家でいい雰囲気になっているのですが、突然女が彼をナイフでめった刺しにして殺してしまいます。一体、何が起こったのかよくわからない諜報員は、それでも彼女を追跡しはじめるのですが、その行く先々で男の死体が転がります。でも、彼は、自分の職務も忘れて、そんな彼女に魅かれていくのです。一方的につけ回す、ストーカーのような男、そして、自分の前に現れる男を次々と殺さずにはいられない女、不思議な関係の二人が、最後にたどり着く場所とは?

この映画の予告編を観た時は、「氷の微笑」のようなセクシー悪女ものかと思っていたのですが、中身は大違いの、ちょっとイカレた男と女のラブストーリーだったのです。男は英国諜報員ですが、女房と娘に家出されてから、娘の幻影と会話するようになってしまったかなりアブナい精神状態です。一方の女はというと、結構挑発的な行動をとるくせに、いざとなると男を殺すという、偏執的シリアルキラーです。ところが、縁というのは不思議なもので、そんな彼女に、男は魅せられてしまい、ずっと彼女を追いかけて、アメリカを転々とするのです。普通なら、彼女の起こす連続殺人がドラマの柱になるのですが、この映画では、犠牲者の皆様には誠にお気の毒ながら、連続殺人はドラマの脇役でしかないのです。それよりも、そんな殺人鬼ヒロインをいつくしみ、守ろうとストーキングする男のドラマがメインになっているのです。

いわゆるサイコキラーものということもできるのですが、それを追いかける方も正気じゃないという設定が、犯罪サスペンスから、閉鎖的なラブストーリーへとこの映画の趣を変えているのです。映像そのものは、ニューヨーク、サンフランシスコ、ボストン、シカゴ、アラスカとアメリカ国内を転々とするロードムービーのような展開を見せるのですが、ドラマ的には、室内劇のような濃密な展開を見せるのです。脚本・監督のステファン・エリオットは、定石を外した先の読めない展開を見せながら、その根底にいびつな純愛というものを置いて、筋の通ったドラマ作りをしています。

映画の中で「どこにでもいる男」と語られる主人公を、ユアン・マクレガーが、本当にどこにでもいそうな男として演じきりました。「リトル・ヴォイス」のようにいい人を演じた時にうまみを見せる彼のキャラクターを、最大限に活用したという印象です。雑踏の中にまぎれこんでしまえば、誰にもわからない男、でも盗聴盗撮のプロフェショナルという設定がそれなりにリアルに見えるのも彼の好演があったからでしょう。そして、彼の好演で、連続殺人という異常なシチュエーションの中での純愛ドラマという展開が説得力を持ちました。

アシュレイ・ジャッドという女優さんは、私のイメージでは、麻木久仁子かフジテレビの小島奈津子アナに似ていると思ってます。いわゆる癒し系キャラであっても、あばずれ悪女系はどう転んでも似合わないという先入観がありました。ですから、この映画でも、冒頭の男をたぶらかす悪女ぶりは、何だかすごく無理してるという感じが持ってしまったのです。でも、その違和感がドラマの進行とともに、必然性を持ってくるのです。このあたりは劇場で確認していただきたいのですが、きちんとした説明はないものの、彼女が生まれながらの殺人者ではなさそうなのです。そうなると、彼女から受けた無理しているという印象は、あながち的外れでもないような気がしてきました。マクレガー同様、キャスティングの妙というのが彼女にも当てはまるのではないかしら。

また、脇を固めたパトリック・バージン、ジェイソン・プリーストリー、ジュヌビエーブ・ビュジョルドといった面々の使い方も一筋縄ではいかないひねりの効いたものになっています。特に、映画の中盤の1シーンのみの出演かと思っていたビュジョルドが再度登場するあたりはなかなか盛り上がりましたし、いつ切れるかと思っていたバージンが最後までいい人だったり、そういう面白さも楽しめる映画になっています。

この映画に犯罪サスペンスを期待すると多分肩透かしを食わされた気分になると思います。でも、いびつなラブストーリーとして見ていくと、なかなか見応えのあるものになるのではないかしら。特にヒロインが、誰かわからないけど、自分を影のように追ってくる人間の存在に気付き始めるあたりから、恋愛ドラマとしてのテンションは高まっていきます。


お薦め度×定石破りだけど、かなり面白かったです。
採点★★★☆
(7/10)
キャスティングの妙と読めない展開がマル。

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