エリン・ブロコビッチ
Erin Brockovich


2000年06月03日 東京 新宿ミラノ座 にて
学歴なしのシングルマザーでもやるときゃやるんだねー。


written by ジャックナイフ
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小さな子供を3人抱えたエリン(ジュリア・ロバーツ)は職探しにお疲れ状態。交通事故に遭っても、裁判での言葉使いが災いして相手から金を取れず仕舞と踏んだり蹴ったり。ついに、彼女は、裁判の時の弁護士エド(アルバート・フィニー)の事務所に強引に押しかけて、そこに就職しちゃいます。ある日、ファイルの整理を仰せつかったエリンは、不動産売買の書類に医療記録が入っているのに不審を抱き、自分で調査してみたところ、化学工場の近所で大規模な水質汚染があることを知ります。しかし、相手は大企業、公害訴訟など時間がかかるし勝ち目は少ないとエドは腰を引き気味です。しかし、エリンはエドを説得し、原告団を作り、訴訟に持ち込むことに成功するのですが。

実話の映画化だそうで、子持ちバツ2のシングルマザーが、公害垂れ流しの大企業に闘いを挑んだヒロインが最終的に、史上最高の和解金を獲得するという物語はアメリカンドリーム風ですが、スティーブン・ソダーバーグの演出は、エリンという女性の成長にスポットをあてて、彼女の業績の部分をあっさりと流しているあたり、好感の持てるドラマに仕上がっています。

よく法廷モノの映画では、法廷で尋問したり陳述したりする弁護士のかっこいい姿を描いてますが、その横で、カバン持ちのような連中がいつも寄り添っています。助手とかスタッフとか呼ばれるこの人々が裁判のための証拠集めや調査といった地味な仕事をしているらしいというのは、この類の映画を観ていて気になっていました。いわゆる法廷でのいいかっこをできるのが、エドであるなら、エリンはそれをサポートするスタッフというわけです。普段の法廷モノとは異なる視点から、物語を作っているという点でも、なかなかに興味深いものがあります。公害訴訟を扱ったドラマながら、法廷シーンは一切なく、エリンが公害の被害者をまわって告訴や証言を引き出すあたりを丁寧に見せます。

もともとエリンという女性は、正義感のある人でもないし、かといって反社会的なタイプでもありません。子供3人抱えて生活に追われる普通の女性です。そんな彼女がたまたま興味を持った事件にどんどんのめりこんでいきます。恋人や自分の子供への対応がおろそかになり、ついには恋人とはわかれることになってしまうという、キャリアウーマンの典型的な葛藤を、ジュリア・ロバーツが軽やかに演じました。いつものアメリカ映画にありがちな正義ヅラした演説もせず、ただ自分の思うところに従って行動して行くヒロインの姿は、時には強引で、時には無謀ですが、それでも人の心を動かす力を持っているのです。自分が初めて他人から必要とされた、だからこの件から手を引けないという彼女の姿に共感を覚える人は少なくないと思います。自分の値打ちを初めて実感できた時ってすごくうれしいと思いますし、世の中にはそういう実感を持たないまま終わる人も結構いるのではないでしょうか。私なんぞ、なんとなく日々をやり過ごしていますので、誰かに必要とされたという事はありません。ですから、彼女は大変幸運な女性に見えてしまうのですが、そのあたりの感想は観る人それぞれだと思います。

でも、この映画は道徳の授業のような堅苦しいものではありません。描き方はあくまで軽やかなのです。公害の被害者の状況はかなり悲惨なのですが、それをセンチメンタルに煽ることはしません。そういう悲惨な状況にある人々の信頼をエリンが勝ち得ることができたということを示すのみです。観方によっては、現実へのツッコミが甘いということもできましょう。ですが、これは社会派映画ではなくて、あくまでヒロインの物語なのです。ここで、公害の悲惨さを告発する方向に物語を走らせず、相手の会社から、金をたくさんふんだくってスゴイでしょというところに収めたのは、私はうまいと思いました。全ての人間がパーフェクトではないのですが、その中でパーフェクトでないエリンのやった功績はそれなりにすごいのです。その功の部分をコミカルにそして、細やかに描いたところにこの映画のお値打ちがあると申せましょう。よくよく見てると、エリンの子供はかなりほったらかしですから、この先、問題起こすかもしれないなーなんてことも後で気がつくのですが、映画を観ている間はあまり気にならないのは、ソダーバーグの視点が明快だからだと思いました。

演技陣では、ジュリア・ロバーツが「プリティ・ブライド」とあまり変わらない演技でライトにヒロインをまとめあげているのが印象的でした。また、相手役の名優アルバート・フィニーが一見軽そうなオヤジだけど、実際は腰の座った弁護士を好演し、ヒロインをうまくサポートしています。訴訟のキーマンは彼の方なのに、あくまでエリンを立てるポジションに徹するというのは、結構難しい役どころではないかしら。また、ヒロインの恋人役のアーロン・エッカートが、アットホームなアウトローを演じて、この映画のアクセントになっています。


お薦め度×実話であろうとなかろうとちょっといい話。
採点★★★☆
(7/10)
名優アルバート・フィニーがジュリアを好アシスト。

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