written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
第三次世界大戦で生き残った人類が学んだことは、戦いはいけないこと、そして戦いは感情があるから起こるのだという結論に達しました。全ての市民は感情の抑制剤を強要され、感情を高揚させる、文学、音楽、美術といったものは全て焼却され、それに反発する反逆者たちは、武装警官や、クラリックと呼ばれる捜査官たちにより、次々に殺されていきました。そんな優秀なクラリックの一人ジョン(クリスチャン・ベール)は、同僚のパートリッジ(ショーン・ビーン)が本を携帯していた反逆者であることを知り、愕然とします。そして自らの手で同僚を殺した彼の中に、何かが変わり始めます。
いわゆる近未来SFということになるのでしょうが、大戦後の都市のイメージは、1970年代のSF映画と大差ないってところが、ちょっとレトロな味わいも感じさせてくれます。視覚的には1980年代のMTVを観ているような気分になりましたが、これが狙ってやってるのか、マジメにやって外してしまったのかが、よくわからないところがあります。クラリックというのが、黒ずくめのコートを着た、牧師と殺し屋の中間みたいなルックスというのは、面白いと思いました。ただ、大元にある、感情を喚起させるものがいけないという設定は、かなり無理があるという印象でして、説得力の不足はドラマ全体を妙に軽いものしてしまいました。
抑圧する側にいた主人公が、同僚の死を発端として、自分の感情に目覚めていくという展開は悪くないのですが、一方で彼はガン・カタという武術を身につけた殺人マシーンだという設定がドラマでは、あまり生きてきません。この武術は自分も相手も銃を持っていることを前提にしたもので、銃火器を持った複数人を相手にして、自分は撃たれない位置に身を置きながら、相手を次々にしとめていくというものです。確かに発砲しても命中する精度って、あまり高くないそうですので、それなりにリアルな武術と言えなくもないですし、これを徹底してアクションとして見せ切ることに成功しており、「うっそでぇ」と思いながらも、なかなかかっこいい見せ場になっています。
その一方で、脚本も書いているカート・ウィマーの演出は、普通の娯楽映画とはちょっと違う線を狙っているようで、結構意表を突いた展開を見せます。「え、そうくるの?」と驚かされたところもありましたからね。
ともあれ、私自身は、この映画全体からは、やはり違和感というものを感じてしまいまいした。それはやはり「感情」というものの扱いにあります。主人公は自分の職務を果たすに当たって、感情を殺して、反逆者を殺しまくります。後半の彼は、感情に目覚めた結果、体制側の人間を殺しまくります。どっちをとっても人を殺しまくる主人公をこの映画はヒーローにしたいようにも見え、その一方で妙に冷めた視点も感じさせるのです。多分、これがローマ時代といった、遠い昔の話であれば、現代の価値観と離れた次元での展開として、心変わりしてもやっぱり相手を変えて殺しまくるというところが納得できるのですが、現代の延長線で考えた場合、革命のために流れる血は正当化されるという意識が垣間見えてくるのは、かなり不気味なものがあります。何のために殺しあうのか、何のための殺人かが、この映画ではかなり曖昧にされています。特に今回のイラク戦争と重ね合わせると、この映画の正義は、結局また多くの殺戮と怨念を生むだろうなと思えてくるのです。作者はそれを確信犯でやっているのか、無頓着でSF設定に酔っているだけなのかがわからないってところが余計に不気味な印象でした。
役者では、何でこんなところにいるのという感じのエミリー・ワトソンが印象的でした。もっと薄幸そうな美女のやるべき役どころをなぜ彼女が(こんな映画に)、出ているのか、これまた結構ナゾでありました。また、ショーン・ビーンが渋みを増して、かっこよかったです。オープニングから彼はオーラ出してましたもの。脇のティ・ディッグスとかウィリアム・フィッチナーは、意外な役どころとしての面白さがありました。一方の主人公であるクリスチャン・ベールは、彼のせいではないですが、ズーランダーに似ているってのは孤高のヒーローにはちょっと不向きかなって気がしてしまいました。ラストの笑みを見て「あ、マグナムだ」と思ったのは私だけかしらん。(比較対照の「ズーランダー」が日本ではマイナー過ぎですね、わけわからんこと書いてすみません。)
レトロなようで、テロ容認風でもあり、センスは古いが、アクションは面白い、でも肝心の設定が無理無理、とどうにも違和感が残る映画ではありました。本当にこの映画2002年の作品なのかあって気がしてしまいました。テレビ東京の昼間の映画で何の前触れもなく放送されてたらカルトに化けたかも(ちょっと無理かな)。
お薦め度 | ×△○◎ | 何かすごく違和感があるんだけど、そこが味わいになっている |
採点 | ★★★ (6/10) | 違和感の一番大きいのは、何で出てるの?エミリー・ワトソン |
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