ウィズアウト・ユー
Entropy


1999年11月27日 神奈川 平塚シネプレックスシネマ6 にて
ダメダメヒーローのラブストーリーがラストで不思議な余韻。


written by ジャックナイフ
E-mail:64512175@people.or.jp


U2のミュージックビデオで実績のある若手監督のジェイク(スティーブン・ドーフ)が劇場用映画を撮ることになりました。一方、ファッションショーの会場で目が合ったモデルのステラ(ジュディット・ゴドレーシュ)とお互いに一目ぼれの関係となり、二人は同棲をはじめてしまいます。映画は慣れないせいもあってかプロデューサーともめてばかり、それでもだんだんと映画に気が入ってくるとステラとの関係がうまく行かなくなっていきます。煙草とアルコールにはまっていくジェイクとステラの関係はついにステラが彼のもとを去ることで終止符が打たれてしまいます。そして、ジェイクは新しい恋を見つけようとするのですが、お互いの想いはそう簡単に吹っ切れるものではなかったのです。

冒頭、何やらアパートの一室で、主人公のジェイクがカメラ目線で話し始めるところから、おや?と思わせる映画です。主人公がナレーターとなって物語は過去へとさかのぼり、ステラとの出会いからラブラブの日々を見せていきます。その見せ方がなかなかに凝っていまして、現在のジェイクがその場面に割りこんで状況を説明したり、コマ落しや、高速度撮影などの視覚的なテクニックを用いて、しゃれたラブストーリーといった展開となっています。なるほど、MTVの監督という設定の映画だから、見せ方の仕掛けを凝らしてあるのかと思ってみていたのですが、その見せ方もある種の伏線だったことにラストで気づかされることになります。

ともかくも、ファッションショーの舞台の上と客席との間で目が合ってお互いが一目ぼれしてしまうというのは、ウソでえーという気分になるのではありますが、スタイリッシュな映像がなんとなくそんなものかなって気分にさせるのが面白いところです。ジェイクを演じたスティーブン・ドーフは監督という設定にしては、とっちゃん坊やなルックスなのですが、その一方のモデル、ステラを演じたジュディット・ゴドレーシュがいわゆる典型的な美形で、ちょっとアンバランスな気もするのですが、そこはドラマです。そもそもダブル一目惚れなのですからその先は何でもありですよね。

しかし、その先、ジェイクの仕事が佳境に入ってくるあたりから、二人の心にすれ違いが見え始めてきます。そして、ある事件をきっかけについには、ステラはフランスへと旅立ってしまうのです。ジェイクにしてみれば、いわゆる「恋人に逃げられた」状態ですから、いい心持ちの筈はありません。未練たらたらでカッコ悪いことおびただしいのですよ。そして、だんだんと酒量が増えてきてアルコールが手放せなくなってきます。このあたりから、ジェイクの状況は目も当てられなくなってきます。「お前、全然ダメやん。」と言いたくなるような最低野郎と化していくのです。知り合った女の子に会って10秒で「結婚しよう」って言い出すし、挙句の果てにあ「あれは酔ったはずみで」って謝っちゃうのですから、最低最悪の無様野郎です。

結局、ジェイクはステラへの想いを捨てきることができません。ところが、どっこいステラの方も同じような気持ちだったから、話が出来すぎの展開になってきます。酒浸りで、ヨレヨレのジェイクも、MTVの仕事を得てそれなりに頑張ってはいるのですが、やはり私生活は無様野郎状態です。そして、そんな彼の状態をステラが知ることとなって、ちょっと意外な展開になってきます。後半、まるでふがいないジェイクが、U2のボノ、そして意表を突いたとんでもない奴から意見されてしまうあたりが、なかなかにシュールで笑えますし、その後のジェイクにとっての決着は、劇場でご確認下さい。そして、ラストで、この映画の凝った構成や、主人公のダメダメぶりの理由がわかるような仕掛けになっていまして、その余韻の残る結末は、私にとって好きな映画になりました。

アイルランドの人気グループ、U2が本人役で出演していたり、脇役としてのヘクター・エリゾンドやローレン・ホリーがいい味出してます。また、「エリザベス」でヒロインの侍女としてかわいかったケリー・マクドナルドが、ダメダメな主人公に「結婚しよう」なんて言われちゃう変な女の子を好演しました。音楽が色々なロックサウンドがビンビンに流れる一方、シリアス部分を「恋に落ちたシェイクスピア」のジョージ・フェントンが担当し、要所要所を影から支えています。

恋愛映画というのは、大体において、一番ドラマチックでロマンチックな瞬間を捕らえているのですが、それで終わりなのと思うときがあります。まだまだその先、山あり谷ありの筈ですが、そこは見せてくれません。すれ違いの末に二人が抱き合ったところでジ・エンドというのは、映画だけの世界です。でも、本当はまだまだ人生は続き、時は流れていく、出会いは一瞬の出来事でも、その先は常に時間の流れの中での物語で、もしもその恋愛は終わったとしても、当事者の人生はまだまだ続いていくのです。そんなことへ想いを馳せてしまうこの映画の結末は、私にとっては大変いとおしいもののように思えました。単なる恋愛ものして片付けるには惜しい一品でした。


お薦め度×原題は「エントロピー」この方が気持ちはわかります。
採点★★★★
(8/10)
正月前のつなぎ公開なのが惜しい映画。

夢inシアター
みてある記