ダブル・ジョパディ
DOUBLE JEOPERDY


2000年03月05日 神奈川 ワーナーマイカルみなとみらいシネマ4 にて
罠にはめられたヒロイン大逆襲、炸裂ママパワー!?


written by ジャックナイフ
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ダンナと子供に恵まれたリビー(アシュレイ・ジャッド)がダンナと二人きりでヨットでクルージングに出ます。目を覚ましたら、ダンナいません、自分も血だらけなら、ヨットの中も血だらけです。そして、ダンナの救いを求める通信が残されていて、彼女は殺人罪で刑務所送りになってしまいます。ある日息子に電話をかけたところ、側の人間に向って「パパ」と呼びかけるではありませんか。これはおかしい、ひょっとして私は亭主にはめられたのか。そして、模範囚となって保釈となった彼女は自分の息子を探し出そうとするのですが。

タイトルのダブル・ジョパディってのは、アメリカの法律にある二重処罰の禁止という項目だそうです。同じ罪で二度裁かれることはないというお約束で、この映画の中では、ダンナを殺した罪が確定したヒロインが再びダンナ殺しで裁かれることはないってのがドラマのカギになっています。そういうと、何だかトリッキーな展開を見せる映画かと思わせますが、ミステリーは物語の発端部分でしかなく、後はヒロインが息子を取り戻すために奮闘するのがメインとなります。「ドライビング・ミス・デイジー」や「ラストダンス」など題材は様々でも、ドラマよりもキャラクターを丁寧に描く演出をするブルース・ベレスフォード監督だけに、後半のストレートな展開もなかなかに見応えあるものになっていて、映画としての出来栄えは佳作と呼べる内容に仕上がりました。

タイトルトップのトミー・リー・ジョーンズは、映画の前半は登場せず、ヒロインが罠にはめられて裁判、刑務所という流れをテンポよく見せていきます。よく考えるとずいぶんとアラのある展開なのに観ているうちはあまり気にならないのは、見せ所と省略のバランスがうまいからでしょう。特に、彼女を罠にはめる悪役の行動パターンはリアリティとしては無理があるのですが、そこを存在感を薄めることでドラマをスムースに流してしまうあたりがうまいと思いました。

後半は、自分をはめたダンナを探し出そうとするヒロインとそれを追う監察官の追跡劇となりますが、スピード感よりも、エピソードを積み上げる展開が効を奏しています。インターネットで息子を預けた友人を探したり、絵画商で絵の売り元を探したりしながら、生きているらしい夫に近づいていくあたりはなかなかにスリリングです。巨大な陰謀とか、組織犯罪というものではありませんから、最終的には個人対個人の戦いなので、ヒロインが段々追い詰める立場になっていくのが面白かったです。

アシュレイ・ジャッドは「スモーク」「ノーマジーンとマリリン」などでシリアス演技を見せる一方、「コレクター」「ヒート」でサスペンスアクションもこなすという達者な女優さんですが、今回は、その中間的なポジションで、無実の罪にはめられたヒロインを熱演しています。とはいえ、ヒロインが息子あいたさに奮闘するというのがドラマの柱なのですが、ベレスフォードが控えめに演出していて、かつジャッドの腹芸が今一つというところもあって、母性パワーはあまり前面に出てこなかったのが惜しまれます。それでも、体を張ったタフなヒロインぶりはなかなかに見物です。また、ヒロインを追う監察官をトミー・リー・ジョーンズが脇に徹して好演していまして、彼の動きを丁寧に見せたことで映画に奥行きが出ました。彼も含めて、彼女をとりまくキャラクターが丁寧に描かれていて、ヒロインの刑務所での友人とか、ニューオーリンズの刑事などがきちんと存在感のあるキャラクターになっています。

また、この映画で特筆したいのは、シネスコ画面をシネスコ画面としてきちんと絵を組み立てているところです。最近の映画は、撮影方式のせいか、スタンダードの画面の上下をカットしたような寸詰まりの絵が多いのです。その結果、シネスコ画面ならではの左右の空間を生かした絵作りをした映画は、少なくなってしまいました。シネスコ画面にこだわるジョン・カーペンターかピーター・ハイアムズの映画くらいでしょうか。でも、この映画は横長をきっちり意識した絵作りになっているのが、見事でした。撮影監督のピーター・ジェームズの手腕によるものでしょう。

観た後で考えてみると、「なぜ、どうして?」と思うところが色々と出てくる映画なのですが、それでも観ている最中は引きこまれてしまうのは、演出のうまさなのでしょう。傑作とは呼べないですが、それでも佳作と呼べる映画に仕上がっています。


お薦め度×意外な展開より、ストレートなドラマの面白さがマル。
採点★★★☆
(7/10)
的確で過不足のない演出が光る佳編。

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