サウンド・オブ・サイレンス
Don't Say a Word


2002年05月25日 神奈川 ワーナーマイカルみなとみらい7 にて
娘が誘拐された、でも要求は身代金じゃなくって。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


精神科医のネイサン(マイケル・ダグラス)の娘が誘拐されてしまいます。犯人はコスター(ショーン・ビーン)一味で、彼らの狙いは身代金でなく、ネイサンの患者であるエリザベス(ブリタニー・マーフィ)から6桁の数字を聞き出すこと。どうやら、その数字にはお宝の秘密があるようで、エリザベスの精神疾患の原因もそのあたりにあるらしいのです。ハイテクを駆使してネイサンや彼の妻の一挙手一投足を監視している犯人たちにネイサンは一糸報いることができるのでしょうか。

「コレクター」のゲイリー・フレダー監督によるサスペンススリラーです。今回は設定がなかなか面白くて、誘拐ものでありながら、警察の介入をうまく回避して、かつ別件の殺人事件の警察の動きを並行して描いて、ずっと高いテンションでドラマが展開していくあたりは、原作と脚本もさることながら、演出のうまさが光る一編になっています。

まず、エリザベスという札付き狂暴な精神病患者が得体の知れないキャラのように登場してくるのですが、彼女を一種の怪物扱いするのは冒頭の数分のみで、後は事情は違えど、犯人たちに追い詰められる被害者側にあることが明確となり、この先どうなるかを身近に感じることができ、その中で、ネイサンとも運命共同体的なつながりができてきます。マイケル・ダグラスは相変わらず色々な役に精力的に取りくむ人ですが、ここでもいかにも普通の金持ちハッピーな精神科医として登場した後、娘を誘拐されてからのヒーローぶりまで、無理なく一人の人間のキャラとして演じきっています。

この映画の面白さは、登場人物がそれなりのキャラクターを割り振られているところによるところが大です。盛りだくさんなストーリーなんですが、登場人物を簡潔にかつ手抜きなく描写しているので、ドラマとしてのテンションが落ちないのです。90年代のノンストップアクションと呼ばれる映画では見せ場のつるべ打ちでストーリーを引っ張っていくものが多くありましたが、最近はいかにドラマを見せるかということの方に重心が移動してきたようです。この作品でも、主人公の行動も納得いくところ多いですし、一方の精神障害の少女を娘救出の駒として扱っているようで、それでも、彼女を気遣うあたりの細やかな演出が光ります。一方の悪役は徹底して悪い奴なんですが、その悪さが徹底してしまうと逆に小物(大物じゃないという意味)としてのキャラクターが見えてくるのです。底が見えるワルとでも言うのでしょうか。単なる象徴的な存在でない、人間っぽさが見えてくるのが面白いところです。

ストーリーのあら捜しをすれば、いくらでも突っ込みどころはある映画なのですが、素直に観ている間は気になりません。気にならないのは、役者がそれぞれ適役適演で、お話以上の説得力が出たという感じなのです。よく見りゃ出来すぎのドキドキハラハラも役者のリアクションで見せ場になるといういいサンプルなのではないかしら。巻きこまれサスペンスでは「パニック・ルーム」も同じなのですが、あちらは登場人物を突き放したクールな視点が面白く、こちらは登場人物の視点でお話を進めていって盛り上げるという違いがあるものの、どちらもその目論見は成功しているように思います。


お薦め度×サスペンスをキープし続けた演出が買い。
採点★★★☆
(7/10)
このレベルがサスペンス映画のアベレージであって欲しい。

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