小さな目撃者
Do Not Disturb


2001年3月11日 東京 丸の内ピカデリー2 にて
口のきけない少女が殺人事件を目撃しちゃった。


written by ジャックナイフ
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アムステルダムへ出張のついでに家族旅行にきたリッチモンド一家。事故で口の聞けない娘メリッサちゃんは空想癖のある元気な10歳の女の子。そんな彼女がホテルで道に迷って路地に出てしまうと、そこで殺人事件を目撃してしまいます。犯人と顔を合わせてしまったメリッサちゃんは、殺し屋に命を狙われてしまうのです。逃げるメリッサちゃんと追う殺し屋、アムステルダムの町を陸を運河をと逃げ回るメリッサちゃん、1度は警察に保護され、パパ(ウィリアム・ハート)やママ(ジェニファー・ティリー)と再会するのですが、安心するのはまだ早かったのです。

オランダのディック・マーズが脚本・監督を手がけ、ハリウッドスターを呼んで英語で作ったサスペンスものの一編です。コロコロしたメリッサちゃんは口は聞けないけど、耳は聞こえて、なかなかに活発な女の子、そんな彼女が殺人を目撃したけど、なかなか信用してもらえなくて、命の危機にさらされるというのを、ムダな展開をはぶいた直球勝負でまとめた一編です。オランダのアムステルダムが舞台というのが、ちょっと面白い趣向で、運河の街ならではのロケーションも楽しめます。

マーズの演出は丁寧にカットを積み上げて、ドラマとしての破綻を見せずにぐいぐいと観客を引っ張っていきます。殺人の黒幕、及び殺し屋がかなりマヌケで笑いをとるのですが、そのマヌケさが、メリッサちゃんとの間に五分の勝負を成立させるあたりはなかなかうまいです。また、発端の殺人シーンも、犯人のマヌケさ故にブラックユーモアの味わいも出ました。後半、犯人が、関係ない人間もどんどん殺してしまうのが、ドラマを粗っぽくしてしまいましたけど、前半のていねいな展開で点を稼ぎました。また、ドラマのほとんどが夜のシーンなんですが、暗さを押さえて、きれいな絵作りになっていまして、ドラマの展開もわかりやすくなっているのが好感が持てます。さらに、シネスコの画面を意識した画面設計で、移動しながらのロングショットが見事でした。また、カーチェイスの車を正面から捉えたカットで、逃げる車は、キャメラの上を通り、キャメラが上へ移動すると追う車がその下を通っていくといった凝った絵がなかなかに見物です。

こういう映画だと、少女のかわいさでドラマの半分くらい引っ張ってしまうことがあるのですが、今回のメリッサちゃんはいわゆる美少女タイプじゃない、コロコロした元気な女の子になっていますので、殺し屋から逃げるのに、エレベータの天井に上ったり、隣のエレベータに飛び移ったり、また油断させておいて殺し屋にハサミで反撃したりと、「ダイ・ハード」なみのアクションを見せてくれます。このあたりの「ウソでえー」と思うような展開を、マーズはテンポよくさばいて、映画を観ている時はあまり気にならないで、ドキドキハラハラのつるべ打ちを楽しむことができます。また、そういうアブないことする女の子だけど、彼女が虐待されるわけではないので、そのあたりも安心して観ていられる映画になっています。

妙にしんみりもせず、かといってお笑いに走るわけでもなく、追われる女の子の一夜を、正攻法で描いて、楽しめる映画に仕上げたのは、マーズの手腕でしょう。冒頭でメリッサちゃんのママが「アムステルダムは犯罪で有名な都市よ」というのが気になっていたのですが、ラストで「ここはいいところね」と締めるあたりは一応観光映画みたいなノリもあるのですが、ともあれ娯楽映画として、モトはとれますから、ご覧になって損はないです。最近は意外と少ない、よくまとまった滅法面白い映画と言えるのではないでしょうか。


お薦め度×定番の展開も丁寧に作ってあるので結構好き。
採点★★★☆
(7/10)
シンプルな構成で脇道にそれない展開が好感持てます。

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