ディープ・ブルー
Deep Blue


2004年07月26日 神奈川 川崎TOHOプレックス5 にて
海をテーマに世界中を巡った音と映像の叙事詩。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


地球の7割をしめる海、そこに生きる生命を描いたドキュメンタリー。イルカがいれば、シャチがいて、シロクマがいてペンギンもいます。魚だって、カニだって、深海の何だか名前のわからないようなのまで、海の中は様々な生命が生きています。そして、彼らの中では生きるための弱肉強食の掟があり、食うか食われるかの毎日なのでした。

「ディープ・ブルー」というタイトルから、賢い人喰い鮫の映画か、「サスペリア2」の姉妹編かと思っていたら、これがイギリスのBBCが作った海のドキュメンタリー。もともとはテレビシリーズだったのを映画用に再編集したらしいです。ただ、大スクリーン用のグレードアップとして、ジョージ・フェントンによる音楽をウィーン・フィルの演奏しています。ドルビーデジタルのサラウンドを効かせた音響効果に、音楽がドカーンと鳴ることで映画館で観るための映画に仕上がっています。海に生きる様々な生命を大スクリーンで見せようという意図は伝わってきますが、観終わった印象としては、焦点が見えにくいというか、曖昧な後味になってしまいました。たとえば、「WATARIDORI」というドキュメンタリー映画は、鳥と一緒に空を飛んでるところを見せたいんだってのが、明確に伝わってきたのですが、この映画では、「あれもこれも」という感じなんですよね。ナレーションの語りも説明が足りない割には、多いってのが、半端な感じになってしまいました。

イルカとかサメとかシャチといったメジャーな素材をたっぷり見せてくれまして、特にそれらのお食事シーンがかなり出てくるのです。海の世界は弱肉強食だぞというのをこれでもかと見せてくるのは、海の「グレート・ハンティング」(ライオンが人を食うというので売った、1974年のイタリアドキュメンタリー。四十代以上の方はご記憶にあるのでは。)を狙ったのかとも思ってしまったのですが、その見せ方にはもう少し工夫があってもいいかなって気がしてしまいました。シャチが違う獲物を襲うシーンを見せるのも、食うものと食われるものが、完全に分かれてしまっているので、食物連鎖の輪が見えてこないのですよ。

名前もわからないマイナーな深海の生き物たちの出番が少ないのも、物足りなかったです。彼らのお食事シーンも欲しかったのですが、それは難しかったのかな。珍しいシーンとしては、魚の群れを襲うイルカの群れに、さらに同じ群れを狙う海鳥を海の中から捉えたショットが美しくも印象的でした。海中を舞う海鳥のシルエットはなかなかにシュールで美しくもありました。小魚の群れが渦を描くように逃げ回る様は、命がけの必死の行動ではあるのですが、それすらも美しく見せてしまいます。小魚は結局エサとしてしか存在し得ないところに物足りなさを感じてしまいました。一方で哺乳類が捕食されるシーンは美しく見せてくれないところを見ると、魚をエサにするのは、狩りだという認識にならないのかもしれません。魚類が食われるシーンは音楽も絵も美しく彩るけど、哺乳類が食われるのは音楽もドラマチックなものになり、悲壮感や残酷さを前面に出してくるのは、若干、釈然としないものがありました。そうか、イギリスは階級社会だったんだって、こんなところで感じてしまうのは、うがちすぎなのかな。

とはいえ、弱肉強食物語として観れば、なかなかの見応えはあります。海の中の生き物は生と死が常に隣り合わせであり、その中で生きてくのは大変なんだというのを実感させてくれる映画になっています。生存競争というのでしょうか。普段、のほほんと生きてきた私にとってはなかなか気付かない視点に目を向ける機会となりました。珍しい生物や美しい珊瑚礁を見せるときは、普通、そこで泳ぐ魚は悩みがなくって優雅そのものという見せ方をするのですが、そこにも生きるための食うか食われるかがあるというのを、これでもかと見せてくるのです。海の中でのんきに泳いでるわけじゃないんだというのを実感できるのは、収穫でした。海の中は「ファインディング・ネモ」なんかより、ずっとシビアで残酷な世界でした。

ジョージ・フェントンの音楽は、海の交響曲とも言うべきオーケストラ音楽をメインに時にはジャズとか、シンセによる環境音楽風の音を入れて、変化に富んだ音作りをしています。ただ、音楽そのものの訴えてくるものは弱く、単調になりがちなドキュメンタリーにメリハリをつけるための説明音楽的な色合いが濃くなってしまったのは、ちょっと残念でした。映像のつなぎそのものに、ストーリー性がないせいか、音楽に頼る部分が多かったように感じます。


お薦め度×珍しい映像を並べたのはわかるけど、テーマでかすぎて焦点が見えず。
採点★★★
(6/10)
お食事シーンが多いのは、弱肉強食がテーマ?

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