written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
ところは中国、剣の使い手ムーバイ(チョウ・ユンファ)は、修行を中断し、自分の名剣グリーン・デスティニーを北京の知人に預けるよう、弟子のシューリン(ミシェル・ヨー)に頼みます。しかし、預けた先でその剣が盗まれてしまい、さらにはその事件に、ムーバイの師の敵である碧眼狐の存在を知り、ムーバイも北京にやってきます。シューリンと知り合いになった高官の娘イェン(チャン・ツィイー)は結婚を控えていましたが、これが只者ではなさそうな様子。さらに盗賊の頭ロー(チャン・チェン)が絡んできます。果たしてグリーン・デスティニーの行方は? さらにイェンに秘められた過去とは?
中国映画で、ロケも中国ですが、コロンビア映画アジアが製作していて、どうやらハリウッド資本がかなり入っているようです。主演のチョウ・ユンファ、ミシェル・ヨーを始め、「いつか晴れた日に」のアン・リーが監督で、「マトリックス」のユエン・ウーピンが武術指導と、アメリカでの実績評価のある人たちで固められています。
こういう武道の達人が登場する話は武侠映画というジャンルがあるそうですが、この映画は、武侠ものに二組の悲恋ドラマを加えていて、大河小説の中からいくつかエピソードを選り抜いたような印象でした。確かにラブストーリーの部分はシリアスなものなのですが、もう一つのグリーン・デスティニーという名剣を巡るドラマの方は、まるで紙芝居を観るような展開で、いかにも「お話」になっているのです。特にそのSFXを駆使したアクションシーンは只事ではありません。壁を走り、屋根を飛び越え、水面を飛翔する、それらの人間技でない、各々のシーンが美しいのです。特にクライマックスの竹林での闘いは惚れ惚れするような見事さです。これらアクションシーンを観ているだけでもモトが取れる映画になっています。
そのアクションのほとんどが女性によるものだというのも見逃せません。この映画はヒロインたちが闘う映画なのです。かといって最近のアメリカ映画のようにダメ男が彼女たちを引きたてるのではなく、男性陣と女性陣が対等なのです。とはいえ、そこに男と女が絡むと完全に対等にはならないというところも隠し味程度に加えてはいますが、少なくとも、ムーバイとシューリンの間の感情は、対等であり、敬意に満ちた愛情であり、それだからこそ悲恋になるというあたりに泣かせるものがあります。チョウ・ユンファとミシェル・ヨーがこの切ない大人の愛を見事に見せてくれました。とにかくカッコいいのですよ、この二人が。
若いカップルはもっとストレートな愛のドラマとなります。特にこの映画の主人公(と、後で気がついた)であるイェンは、若さならではの、思いこみと傲慢さがあって、その幼さが、シューリンとのうまいコントラストになっています。彼女を演じたチャン・ツィイーは、その尖った若さをうまく表現していました。
見せ場のアクションシーンは、役者の体技と、ワイヤーワーク、さらにワイヤー消去のデジタル処理により、アニメでもやらないようなアクションが実写で展開します。また、そのアクションも各々のキャラクターがきちんと描きわけられているのが見事でして、イェンの踊るような華麗な動きと、シューリンのダイナミックな殺陣、ムーバイのムダのない動きがシネスコの画面に展開します。これら、アクションシーンをとらえたキャメラワークも見事でした。アメリカ映画で中国の俳優を使った作品「シャンハイ・ヌーン」も「ロミア・マスト・ダイ」もアクションをきちんと画面におさめきれていないのが不満でしたが、この作品ではさすがに本家だけあって、アップの後にロングショットを挟むタイミング、ミドルショットの移動キャメラなど、見せたいところをきちんと撮影して、きちんとつなぐことをしています。スローモーションも何箇所か使われているのですが、編集のうまさでアクションのスピード感を損なうことがありません。殺陣そのものも、「ここまでやれるんだ」と思わせる素晴らしい出来でした。
一言で言ってしまえば、若いヒロインの覚醒&修行編というべきお話ですが、それに、美しいアクションとロケシーンを加え、さらにラブ・ストーリーも加え、娯楽映画としてサービス満点の出来栄えと申せましょう。中国の荒野、豪華なセット、竹林やウーダン山など大画面で観るための絵になっていますので、劇場でご覧になることをオススメします。ただし、ケチをつけるとするなら、ユンファ、ヨーにドラマを割き過ぎた結果、主人公であるはずのイェンが物語の軸になるまでに時間がかかりすぎ、彼女の回想シーンがドラマの流れを鈍らせてしまったというところでしょうか。ともあれ、この美形ヒロインの続編を期待したいところです。
お薦め度 | ×△○◎ | シネスコ画面の美しさは劇場がおすすめ。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 悲恋ものがメインだけど、とにかくアクションに目を奪われます。 |
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