written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
時代設定は近代のヨーロッパみたいですが、成金の息子ビクター(声:ジョニー・デップ)と没落貴族の娘ビクトリア(声:エミリー・ワトソン)の政略結婚が進められていました。当事者同士、顔も見たことのないまま結婚式のリハーサルになるのですが、この二人が結構いい雰囲気になります。でも、花婿のあまりのドン臭さにリハーサルはボロボロ。森の中で一人、式の練習をしていたら、結婚の誓いがそこに埋まっていた死体の花嫁に届いてしまいます。ビクターは死者の世界に引きずり込まれ、死体の花嫁(声:ヘレン・ボナム・カーター)との結婚を認めざるを得なくなってしまうのです。でも所詮は生者と死者、このまま夫婦にはなれそうもありません。死者の世界の長老の提案はビクターに死んでもらうしかないってことになっちゃうのですが、果たして、死体の花嫁との結婚は成就しちゃうのでしょうか。
ストップモーションアニメーションによるグロテスクなお伽話を「チャーリーとチョコレート工場」や「シザーハンズ」のティム・バートンが監督しました。何しろ、死体と結婚する羽目になっちゃう優柔不断な男のお話ですからね。リアルにやったら死体愛好趣味映画になっちゃうのを人形アニメによるミュージカルにすることで、あの世をコミカルに描くことに成功しています。でも、ところどころにホラーっぽい演出を取り入れたりして、要所要所にバートンらしい毒を盛り込んではいますが、全体としては笑えてちょっとホロリとさせるコミカルな映画にまとめています。
主人公のビクターは成金の息子にしては、弱気で優柔不断な男です。何ともつかみどころのないビクターは、結婚式の段取りもまともにこなせないばかりか、死体と結婚する羽目になっても、成り行きまかせで、それを打開しようともしません。この影の薄い男をジョニー・デップが少ないセリフで的確にキャラクターを表現しました。一方の死体の花嫁の方は積極的に自分をアピールして、幸せになりたいという気持ちを前面に出してきます。明確な意志を持ってるけど、繊細な感性も持ちあわせた、その切ないヒロインぶりには、ホロリとさせるものがありました。演技者として一級のヘレナ・ボナム・カーターが見事にヒロインぶりを聞かせてくれます。見た目のキャラは結構怖いんですが、その奥に潜む思いをきちんと表現できているのは見事でした。
でも、ラブストーリーというよりは、異形の者たちへのマニアックな視点の方が際立ってしまうのが、ティム・バートンらしいところです。特に後半、死者たちがこの世に出てきてしまうのですが、これを否定的に描かない一夜のお祭り騒ぎに見せるあたりがすごいと思いました。あの世から死体がよみがえってきて、村はてんやわんやになるのですが、その死者たちが自分の肉親や旧友だとわかると生者と死者が再会を喜び合うのですよ。生と死の垣根を曖昧に見せているとはいえ、骸骨やゾンビと仲良くする絵というのが何とも変、というか変態チックな絵なんですよね。キャラクターをディフォルトした人形アニメとは言え、これは大人のジョークであり、子供向け映画ではありません。
ビクター、ビクトリア、死体の花嫁の三角関係の結末は劇場でご確認頂きたいのですが、ここで意外と宗教的な視点がなく、死者と生者の世界が地続きであるように描かれているため、私のような日本人にもわかりやすい展開になっています。要は、住む世界の違う二人が一緒になれるのかというお話なのです。さらにその想いは死体の花嫁からの一方的なもので、花婿のビクターはもともと手違いで結婚したことになっちゃって、できることならビクトリアと結婚したい。でも、優柔不断な彼はその運命を受け入れようとします。ここで、ビクターを何考えてるのかわからないキャラにしたのは、作り手の迷いというよりは確信犯的なものを感じます。作り手の死体のヒロインへの肩入れ度が高いのですよ。でも、主人公が死体へ傾いちゃうとお話が収束しなくなるから、仕方なく感情を表に出さないようなキャラにしたということのようです。並のドラマであればクライマックスで主人公が大見得を切る見せ場があってよさそうなのに、それがないんです。じゃあ、ヒロインの切ない恋心の悲劇になるのかって言うとそうでもなくって、実は恋愛ドラマじゃなかったとダメ押しする結末は呆気にとられながらも、ああこれは幽霊譚だったのかと納得できたのでした。
同時期に製作された「チャーリーとチョコレート工場」がおとぎ話を家族愛の物語に落とし込んでいたのに対し、こっちはあくまでおとぎ話のままフワフワしていたのが面白いと思いました。変にまとめすぎないところで、こっちの方がバートンらしいのかもしれません。
お薦め度 | ×△○◎ | 幽霊とゾンビがごっちゃになってるような不思議な世界。 |
採点 | ★★★ (6/10) | 人形アニメのよさをゲテモノ世界にうまくはめこんだのはうまい。 |
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