コラテラル
Collateral


2004年11月13日 静岡 静岡オリオン座 にて
殺し屋の仕事に巻き込まれたタクシー運転手の恐怖の一夜。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


ロスのタクシー運転手マックス(ジェイミー・フォックス)が、ある晩ビンセント(トム・クルーズ)という客を乗せて、一晩貸切にしたいという申し出を受けます。実はビンセントは殺し屋でして、ある裁判に関わる人間を5人、一晩で殺そうとしているのでした。とんでもない客に乗り込まれたマックスですが、銃で脅され、逃げるに逃げられず、ビンセントに付き合う羽目になってしまいます。果たして、ビンセントは仕事を全うしてしまうのでしょうか。そして、マックスは生きて朝を迎えることができるのでしょうか。

「ヒート」「ラスト・オブ・モヒカン」などでハードな男の世界を描いたマイケル・マン監督が、ロスを舞台に殺し屋とタクシー運転手の一夜を雰囲気たっぷりに描きました。銀髪のトム・クルーズというのは意外なルックスですが、絵に描いたようなクールな殺し屋ぶりで、なかなかに迫力があります。人の命なんてどうってことないとうそぶく一家言ある殺し屋を、クールに熱演しています。そして、一方のジェイミー・フォックスは、夢と善意を持ち合わせた男として登場し、その正義感はビンセントに対する怒りの感情となります。冷酷な悪と、希望を持つ善の対決という設定で、ロスの冷たい空気の中で展開するドラマは、リアルさよりも、一種の寓意を運んできます。冒頭で会話に出てくる「このロスで地下鉄の中で男が死んでいたが誰も気付かない」というエピソードがラストでもう一度繰り返されるあたりに、この映画の狙いが感じられました。

映像的には、夜の空気感を表現した撮影が素晴らしく、ロスというワンダーランドのスタイリッシュなおとぎ話ということもできるかもしれません。銃のアクションもリアルというよりは、かっこよさを前面に出したところがありまして、トム・クルーズがやることで、絵になってるんですよね。

と、まあ、雰囲気的にも絵的にもばっちりで、役者も熱演しているから、この映画が面白かったのかというと、実は、そうでもなかったのが残念というか、不満というか。とにかく、殺し屋の行動が全然リアリティがないのですよ。はっきり言って行き当たりばったりでかなりマヌケ。ゴルゴ13になれとはいいませんが、必殺シリーズの皆さんのような、「仕掛けて仕損じなし」と思わせる説得力が欲しかったです。ターゲットを自分の乗ってきたタクシーの上に落としちゃうあたりは、まだご愛嬌ですが、それでキズのついたタクシーに乗り続けるとか、素性がばれても、マックスを生かしておくあたり、本気で仕事する気があるんだろうかという気がします。そこから先の殺し方も派手過ぎて、すぐにアメリカ中に手配写真が配られるくらい、目立つことばっかやってます。そもそも一晩で5人も殺す、それもターゲットのデータを当日もらって、下調べもせずに殺しに行くというのは、やくざの鉄砲玉でもやらないでしょう。だから、折角、クールに決めたクルーズの演技も行動がマヌケ過ぎて、ただのカッコつけオヤジになっちゃいました。一方のマックスの行動は、リアルで説得力があるので、どうも全体のバランスがしっくりときません。脚本と演出と演技の3者が各々に頑張ろうとはしているのですが、3者で足を引っ張り合ってるような感じなのです。せっかくの素材、人材も、使い方次第なんだなあってことに気付かせてくれる映画でもありました。

これが、タクシー運転手のマックスが完全に主人公で、殺し屋が脇役だったら、このストーリーでも何とかなったかもしれません。クライマックスなんか、殺し屋がマヌケに時間を稼いでくれたおかげで運転手がヒーローになりえたわけですしね。或いは、殺し屋がプロに徹してくれたら、クルーズももっと光って、ムダな殺しもしなかったろうにとか、そんなことを思ってしまいました。また、折角の脇役陣、マーク・ラファロとか、ブルース・マクギルなんて連中がちっとも生かされていないのも不満でした。何だか勿体ない感じ。オープニングでジェイソン・ステイサムが出てきて「おお」と思ったのですが、ビンセントにカバンを渡しただけで後は全然出てこないのも肩透かしを食わされた気分でした。

設定はすごく面白いと思うのですが、誰をヒーローにして誰のキャラに奥行きをつけて、どこにリアリティを出すかといった、話の膨らませ方がうまくなかったのかなあ。やはり、トム・クルーズというスターを使うということが映画の足かせになってしまったという印象を持ってしまいました。少なくとも、トム・クルーズはキャラとしてすごく立ってますもの。「ラスト・サムライ」では、自分が主演なのに渡辺謙においしいところを持ってかれたので、今回は一番おいしいところを押さえようとしたのかもしれませんが、もともと、その役はスター格が主役で演じるものではなかったのでしょう。


お薦め度×主人公の二人は頑張ってて雰囲気も悪くないんだけど。
採点★★★
(6/10)
殺し屋の行動がマヌケ過ぎて、かっこつけても空回りしちゃうのがどうも。

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