チキンラン
Chicken Run


2001年04月14日 東京 日比谷みゆき座 にて
ニワトリの大脱走作戦。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


トゥイーディー養鶏場で、卵を産めなくなった雌鶏は、締められてしまう運命です。そこで、日々脱走に明け暮れるジンジャーですが失敗ばかりです。一方、トゥイーディー夫人は、養鶏場の経営に嫌気がさして、チキンパイ製造機を導入しようとしています。そんなある日、空からロッキーが降ってきました。彼は空飛ぶ鶏の旅芸人なんです。彼から空飛ぶ方法を学べば、ここからみんなが脱走できる、というわけで彼をかくまうかわりに、飛び方を習うことになりました。しかし、養鶏場にチキンパイ製造機が届き、いよいよ試運転が始まりました。早く飛べるようにならないと、みんなまとめてチキンパイにされてしまいます、さあどうする、ジンジャー。

「ウォレスとグルミット」シリーズで有名なイギリスのアードマンスタジオのニック・バークとピーター・ロードが、スピルバーグのドリームワークで作ったクレイ(粘土)アニメーションです。最近のCGに比べれば、静止アニメのこの作品は、動きがカクカクするところもあるのですが、その動きも含めてコマ撮りクレイアニメーションならではのキャラクターが、楽しい動きを見せてくれています。今回は鶏の集団をこのアニメで描いているのですから、その手間は相当なものと思われますが、そんな作りの部分が気にならないくらいお話が面白くできています。登場する連中なんですが、鶏というよりはデブのペンギンにビッグバードを足したような感じでして、空を飛ぶなんてとてもじゃないが想像できないキャラクターです。

まず、養鶏場とは名ばかりで設定は捕虜収容所でして、そこから脱走を試みては独房に入れられるジンジャーの姿が繰り返しでコミカルに描写されます。その後、卵を産めなくなった鶏が処分されてしまうのを見せて、養鶏場が捕虜収容所であり、経営者のトゥイーディ夫人がナチスドイツのような位置づけになることが明確になります。とはいえ、捕虜である鶏たちの団結はあんまり固くなくて、ジンジャーの脱走しようという意欲も空回りしがちです。このあたりの鶏たちの騒々しさをアニメできっちり描いているのがすごいです。

そして、ロッキーなる胡散臭い雄鶏がやってきてからも、空を飛ぶための訓練がコミカルに描かれ、もともとずんぐりむっくり体型の鶏たちのドタバタで笑わせてくれます。そして、チキンパイ製造機が登場してから、そこに放り込まれてしまうジンジャーを助けようとするロッキーという展開で、映画は活劇調になっていきます。そして、最後の大脱走(方法は劇場でご確認を)での、たたみ込みと盛り上げの見事さは、アメリカのよくできたアクション映画に引けをとらない出来栄えで、その辺のアクションものなんかより、ずっと興奮させ、感動を呼ぶものになっています。特に、脱走の仕掛けがその全貌を画面に現すシーンは圧巻でした。

もともとイギリス出身なので、ヨーロッパ風の醒めた笑いで押しきるのかと思いきや、映画のパロディやら、動きのギャグも入れて、陽性の笑いになっているのが意外でした。チキンパイ製造機の中でジンジャーとロッキーが逃げ回るあたりは「インディ・ジョーンズ」を思わせるものでしたし、クライマックスの空中戦(ちょっとネタばれ)も、007シリーズのクライマックスを彷彿とさせるもので、そういう活劇の面白さとクレイアニメの鶏のギャラのミスマッチがまた笑いをとります。その笑えるミスマッチの一方で、きちんと活劇として盛り上がる演出になっているのが見事で、この映画、なかなかにあなどれません。

ストーリー的には、「友情、団結、勝利」という少年ジャンプみたいな展開のお話でして、それを見た目だけで笑える鶏が演じることで、余計目に面白さと楽しさが加わりました。それでも、ジンジャーとロッキーの恋模様もきちんと描かれていますし、観ていて、鶏たちを応援したくもなりますし、ラストでカタルシスが得られるということもあって、娯楽映画としてかなりクオリティの高い作品に仕上がりました。ハリー・グレグソン・ウィリアムスとジョン・パウエルというハンス・ツィマー一派(メディアベンチャーズというチーム)の二人による音楽は戦争映画風の音作りをベースに様々な曲でドラマを盛り上げていまして、特にクライマックスの盛り上げは音楽の力によるところ大でした。


お薦め度×笑い、アクション、そして結構感動。
採点★★★★☆
(9/10)
アニメの動きだけじゃない、元気の出るお話。

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