written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
ドキュメンタリー映画であり、そして扱っている題材が銃社会アメリカという極めてシリアスなものなんですが、監督であるマイケル・ムーアのタッチは誰にでもわかり、誰でも何かを感じ取れる映画に仕上げています。コロンバイン高校で起こった事件を知らない人でも、なぜアメリカで銃による殺人が多いのかという点、そして、なぜアメリカ「だけ」なのかという点に思いを馳せることができるでしょう。何より、彼自身が画面に登場することで、映画の視点が大変明確になりました。自らが銃を持つことが当たり前の文化の中で育ち、全米ライフル協会の会員であるということは、映画に相当な説得力を与えています。
自衛の論理は、ごもっともと思いますし、そのために銃が必要だという理屈は説得力があります。ただ、銃を自衛のためだけに使いこなせるようには、人間はできていないのです。そして、とんでもない形で銃は使われてしまい、一般市民を殺傷します。しかし、この映画の中では、銃と人間とのあるべき関係を語ってはいません。ぞれよりも、なぜ銃を持ちたがるのかという個人の感情をあぶり出そうしているようです。そして、導かれる結論として、アメリカ国民の持つ不安と恐怖が、メディアや死の商人たちに利用されているのだというのです。メディアは視聴率を稼ぐ手っ取り早い手段として悲劇と暴力を視聴者に送り続けているという図式はなるほど日本のテレビでも同じようなことをやっています。一番いい例は「ノストラダムスの大予言」でしょうか。この映画のうまいところはそのサンプルの見せ方でして、例としては、南米から北上してくると大騒ぎされた殺人蜂を挙げています。結局、まだ殺人蜂はやってきていないのにというわけです。
ムーアの視点が、「なぜ、アメリカだけ銃による殺人が多いのか」まで降りてきたとき、彼は大変明快な仮説を出します。「身近に、即活用できる形で銃が置いてあるからではないのか。」と。そして、アメリカ人が銃を身近に置かなければ安心できないという点まで言及していきます。そこには、アメリカ以外の国にはあまりない、銃で商売する人々の思惑と彼らによるプロパガンダがあるのだと。もし、20年前にこんなことを言われたとしても、「ふーん」と思うだけだったでしょうが、湾岸戦争時の情報操作やイラク攻撃を強行しようとしているアメリカを見てしまった今は、ものすごい説得力が出てきてしまいました。自然発生的にアメリカ人が銃を買い込んでいるわけではなく、何者かに操作されているアメリカ人の姿が見えてきます。
ラスト近くで、全米ライフル協会のチャールトン・ヘストンへインタビューするシーンがあります。(宣伝文句のアポなし取材はウソ、きちんとアポ取って訪問してます。)ここでのムーアは非常にえげつないインタビュアーとなって、銃によって死んだ少女のことで、ヘストンを追い詰めていき、そして、銃を身近に置く人間の弱さを引き出すことに成功します。結局は銃を身近に置く理由は恐怖と不安からであり、その恐怖や不安はアメリカ人に作為的に植え付けられているのだというところで映画は終わります。
この映画を観ていると、自由と民主主義の国アメリカも、今の北朝鮮や戦前の日本と大差ないという気がしてきました。ただ、大きく違うところはこういう映画が作られること、そして、その映画がコミカルな娯楽映画として成り立っていることでしょう。デブっとしたオヤジ、マイケル・ムーアが口座を開くと銃をくれるという銀行を訪れるシーンから始まるこの映画は全編に渡って、声高に叫ぶこともせず、アニメも交えた構成は、誰でもわかりやすくて、受け入れやすい形を取っています。これは、アンチ銃社会のプロパガンダだということもできます。中盤、コロンバイン高校での銃乱射事件をビデオ画面と警察への電話録音だけで見せ切るあたりは、銃に対する恐怖を印象付けるのにかなり有効なテクニックと言えます。
しかし、一方、ムーアが「銃はアメリカの文化で、手放してはならない」という立場で映画を作ったとしたら、それはそれできっと大変に説得力のある映画になったことでしょう。銃反対者の議論の矛盾を突いたり、銃の必要性をアニメで表現したり、この映画で使った手法で全く逆の結論を導くことも可能だと思います。ムーアに兵器会社のスポンサーがつかなくてよかったと思ってしまったのですが、人心を操作するテクニックを金のために使う人間はたくさんいるわけでして、我々はメディアから受け取る情報をきちんと自分の意思で取捨選択していかないと、いつの間にか、誰かの術中にはまっているのかもしれません。
お薦め度 | ×△○◎ | 情報操作を伝えるメディアであるこの映画も情報操作なのかも。 |
採点 | ★★★★ (8/10) | ラストの余韻をどう受け取るかでこの映画の評価は両極端に分かれそう。 |
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