ブレス・ザ・チャイルド
Bless the Child


2000年12月02日 東京 上野スタームービー にて
神と悪魔の縄張り争い、でも代理戦争ね


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


ある日看護婦のマギー(キム・ベイジンガー)のもとに妹が生まれたばかりの赤ん坊を連れてやってきます。麻薬中毒の彼女は赤ん坊をマギーのもとに置いて姿をくらまし、6年の歳月が流れます。すっかり大きくなった娘コーディですが、情緒的に何か障害があるように見えます。一方街では6歳の子供が惨殺されるという事件が相次いで発生していました。死体には、謎の紋章のようなものが残され、どうやら悪魔崇拝者たちによる何かの儀式のように思われました。そんな折り、突然マギーの前に妹と婚約者と名乗る男が現れ、コーディを連れ去ってしまいます。警察に相談に行ったマギーは、その婚約者がFBIもマークする邪教集団のヘッドだと知ります。どうやら、コーディは神側の使いであり、悪魔は彼女を味方にとり込もうとしていたのです。マギーと警察は彼らを追いますが、悪魔との契約の儀式の時がやってきたのでした。

私はクリスチャンではありませんし、あまり神様への信仰もない人間なので、こういう神と悪魔の闘いを描いた映画というのは、社会の勉強みたいなつもりで観ています。なるほど、こんなことを考えている人たちがいるんだなあって感じでしょうか。今年の「ロスト・ソウルズ」というのも、神様と悪魔の闘いになぜか人間が振りまわされるというお話だったんですが、今回の「ブレス・ザ・チャイルド」も同じで、神と悪魔の戦争なんだけど、兵隊は人間だというところが、人間である私は気に食わないのでした。ともあれ、今、比率の上では少ないとしても、結構な数の人間が悪魔崇拝者らしいのです。なぜ、そうなるのかというと、たまたま自分の信仰した宗教の頭が悪魔だったということだけのようですね。まあ、オウム真理教にしても、そんなものなんでしょうから。それを神の側から描くと、向こう側はすごく悪くて醜くてグロテスクになっちゃうのは、致し方ないでしょうね。戦前の日本における鬼畜米英みたいなものです。

ヒロインのマギーがそれほど信仰に厚い女性ではないので、自分の娘のようなコーディが悪魔にさらわれてしまった時、自力で彼女を救い出そうとするあたりが面白い設定になっています。それでも、どうにも勝ち目がなさそうで、神に祈るという展開は、神様のプロパガンダ映画と言えなくありません。そして、きちんとラストではその祈りに答えるあたり、やっぱり頼れるのは神様、最後には悪魔は見捨てるんだよという見せ方が、なるほど、これが神様との契約なんだと、うーん、結構勉強になる映画です。いや、おちょくってるわけではなく、本気でそう思います。娯楽映画だから勧善懲悪なんだという以前に、この「神、悪魔、人間」の三者の関係を考えるいい材料ともなる映画です。確かに単にオカルトスリラーと観る事は当然できます。オカルトスリラーとした時、この映画はなかなかよくできてると申せましょう。じわじわと怖がらせる一方、ショッキングな超自然的なシーンは、マギーの幻覚であるかのような見せ方をして、ドラマが浮付いた感じになっていないのは見事です。とはいえ、実際にガーゴイルの如き羽根を持った悪魔が空を飛びまわるイメージが登場するのが、視覚効果的にはよくできてはいても、若干マンガチックになってドラマの重みを減らしてしまったのは残念でした。チャック・ラッセルの演出は、ヒロインのマギーを中心に据えて、母親のドラマに仕上げており、神と悪魔の闘いをあくまでサブプロットにしているため、小難しい理屈抜きに、子供救出のドラマとして盛り上げるのに成功しています。また、脇にルーファス・シーウェル、クリスティナ・リッチ、さらにイアン・ホルムと曲者を配し、ベイジンガーの好演もあって、役者で見せるドラマになっています。

悪魔側は、財力と人海戦術で、コーディを探し出し、邪魔するものを排除していきます。マギーはどんどん追い詰められて、悪魔側へ対抗する気力はもはや母性しかなく、神への祈りの言葉を口にすることにもなります。そして、捨て身で敵方へ乗り込んだ彼女の前で、神様は奇蹟を起こすのですが、ちょっと待てよ。こういうパターンはどっかと見たことあるぞと気付いたのが、これ「水戸黄門」の展開に似てるなあって。ヒロインは徹底的に追い詰められ、彼女の支援者も殺されるのに、神様は直接彼女を助けることはしません。「まだ様子を見ましょう」って感じなんです。一方、黄門様のかげろうのお銀の如く、ヒロインを陰から助ける存在も登場するのですが、ぎりぎりのところでやっと、葵の御紋が登場して悪者を蹴散らすというわけです。なるほど、神様も黄門様も似たようなことやっとるわいと気付いてみれば、勧善懲悪の物語は、洋の東西を問わないんだなあって感心してしまいました。

ともあれ、悪魔と神様の闘いはまだ終わっていないと思わせるラストはなかなか含蓄があると言えるかもしれません。でも、人間同士が悪魔と神に分かれて闘っている間は、決着なんかつきようがないです。本当に神や悪魔が存在するのであれば、直接対決すればいいのにとも思ってしまうのですが、善と悪が決着ついちゃったら、人間側の様々な商売(宗教、文学、メディア、戦争などなど)が成り立たなくなってしまうのも事実ですから、まあ、当分は「人、悪魔、神」は共存共栄の道を歩むことになるのでしょう。


お薦め度×この展開って、水戸黄門じゃないの?
採点★★★☆
(7/10)
結局は強い方を善とか神とか呼ぶんだね

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