ビューティフル・マインド
Beautiful Mind


2002年03月30日 神奈川 藤沢オデオン1番館 にて
天才が幸せだとは限らない、でも結構幸運な天才の話、かな?


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


プリンストン大学に入学した数学の天才ジョン・ナッシュ(ラッセル・クロウ)はちょっと変わり者。頭はいいらしいけど、周囲と打ち解けないし、人付き合いもよくないし、ルームメイトのチャールズとは何とか友人になれたけど、みんなから変人扱い。それでも画期的な論文を書いて、ウィーラー研究所に進み、暗号解読の達人として名を馳せます。そんな彼に政府筋の人間だというパーチャー(エド・ハリス)という男が、彼に特殊な暗号解読任務を依頼してきます。一方、アリシア(ジェニファー・コネリー)と恋に落ちたジョンは彼女と結婚し、幸せな生活を送っていたのですが、彼は誰かに尾行されていることに気付きます。パーチャーからの仕事はだんだんヤバい様相を呈してきます。一体、ジョンはどんな事件に巻き込まれてしまったのでしょうか。

この映画には仕掛けがあるのですが、それに触れずには書けないため、これからご覧になる予定のある方はパスして下さい。

世の中にはちょっと変わり者というのは、結構います。この映画のジョン・ナッシュというのもそんな一人ですが、なまじ頭がいいものだから、気位が高くて、周囲を見下したようなところがある、あまりお友達になりたくない奴です。それでも、いい友達ができるあたりが幸せなように見えますし、変わり者の彼に積極的にアプローチする女性もいるのですから、私なんかからすればうらやましい限りです。ところが、変な仕事を仰せつかったために生命の危険にさらされてしまう。これまた、ずいぶんと理不尽な不幸です。ところが、その幸せと不幸が幻想だったという展開はかなりビックリです。精神病と診断され、自身の過去の半分以上を否定された彼に残ったのは、大学で書いた画期的理論の実績と奥さんだけになります。でも、そのおかげで、彼は大学に復帰できてノーベル賞を取るに至るのですから、かなり幸運で幸せな奴だと言えそうです。もともとの性格もあまりよさそうな気がしない人間だけに、本当に幸運な巡り会わせに恵まれてたと思います。

彼にとってはラッキーなんですが、これが、奥さんのアリシアにとってみれば、とんでも地雷を踏み当てたようなものではないでしょうか。中盤、彼女が自分がなぜ幻覚に悩まされる夫からなぜ離れないかというシーンがあります。そこで彼女が言うには「義務感と後ろめたさ」だというのが大変印象的でした。通常の社会生活に支障を来す夫と人生を共にする理由としては「義務感と後ろめたさ」というのは相当に重いです。彼女はそれを自ら進んで選択したのか、それとも逃げ場を失った結果そうなってしまったのか、この辺りを映画はうまくボカしていたように思います。彼女にとっての、ジョン・ナッシュとの人生はどういうものだったのか、ノーベル賞とか社会的な認知がなかったとしても、それを意味あるものとして受け入れられたのかどうかが気になってしまいました。

映画の構成が前半のサスペンスタッチの余韻で後半も引っ張っていくようなところがあり、幻覚とわかってからも、ジョンの主観でドラマが展開するので、奥さんのアリシアの視点が曖昧になったように思えます。確かにジョンが自分を精神分裂症と認め、幻覚とうまく折り合いをつけていく過程は感動的なのですが、それもアリシアのサポート、そして彼を拒絶しないで受け入れた大学のサポートといったものがあってのことです。病気以前に傲慢な性格な主人公を受け入れる周囲の人々を、この映画は当たり前のように描いてますが、私からすると、彼らこそ「ビューティフル・マインド」の持ち主のように見えました。まあ、自分にそういうところがないからかもしれませんけど。

ジョン・ナッシュという人はこの映画で観る限りは大変幸運な人のように思えます。しかし、その幸運が誰かの不幸との引き換えに得られているのではないかと思わせるあたりにこの映画の奥行きを感じます。また、精神分裂病の「自分の実績や思い出といったものが全て幻かもしれないという恐怖」をクールに描いたという点も評価できますし、側にいる人たちの苦悩と善意もきちんと描けていると思います。ただ、周囲の人間の善意を底抜けのように見せるあたりはホントかなあって気もしてしまいました。アリシアの献身ぶりを、単に「愛」だけでは括りきれないのは、狙ってのことなのかな。

ラッセル・クロウは、若い時の高慢な天才から、年を取ってからの枯れたユーモアのある老人までを、ケレン味たっぷりの演技で演じきっています。相手役のジェニファー・コネリーはこれでアカデミー助演女優賞をとったのですが、大変おいしい儲け役とはいえ、映画の感動の半分をさらう名演を見せてくれました。また、エド・ハリスが文字通りつかみどころのない役どころを淡々とこなしているのが印象的でして、現実界側のクリストファー・プラマーとの対照が見事でした。このあたり、曲者役者二人を押さえとしてうまく使っています。


お薦め度×奥さんの物語にしたら痛々し過ぎて後味悪いかも。
採点★★★☆
(7/10)
主人公より主人公を取り巻く人々が泣かせます。

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