written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
ゴッサムシティの名士ウェイン家の一人息子ブルース(クリスチャン・ベール)は幼いときに両親を強盗に殺され、悪を倒すための方法を求めて世界をさまよっているところをヘンリー(リーアム・ニーソン)という男に招かれて、ラース・アル・グール(渡辺謙)のもとで修行をすることになります。修行を終えてゴッサムシティに戻ってみれば、街はファルコーネ(トム・ウィルキンソン)に牛耳られ、議会も警察も腐敗しきっていました。幼馴染のレイチェル(ケイティ・ホームズ)は検事としてファルコーネに対抗しようとしていますが、なかなか思うようには行きません。ブルースは正義を行うためのシンボルとして自分にもう一つの顔を与えます。それは自分のかつての恐怖の対象であったこうもり、すなわちバットマンだったのです。
これまで、ワーナーの大作として「バットマン」は4作作られてきましたが、前半2作が内面的過ぎで、後半2作が派手過ぎという両極端の傾向を持っていました。好きな人には面白い映画だったのですが、オタク系娯楽大作という、座りのよくない映画であったことは否めませんでした。今回はそれらの話の前日談として、なぜ主人公がバットマンになったのかを描いて、これまでになかったブルース・ウェイン中心の映画に仕上げました。監督(共同脚本も)が「メメント」や「インソムニア」で善悪の狭間に追い詰められた主人公を描いた実績のあるクリストファー・ノーランが抜擢されています。どっちかというとマイナー系の映画を作ってきた人が突然ビッグな予算、豪華キャストの超大作を演出するというのはビックリではあるのですが、出来上がった作品は、大作の風格を持った映画になっていました。
この映画の主眼は、両親を殺されたブルースが復讐の鬼と化さずに正義を行う者バットマンになっていくというその過程にあります。後半に、ゴッサムシティの危機という見せ場もあるのですが、そのあたりはむしろあっさりと流した感がありまして、あくまでも主人公の覚醒にドラマの比重がかかっています。そのせいか、後半の活劇よりも、前半の主人公の葛藤の方が印象に残ってしまう映画に仕上がっています。クリスチャン・ベールはこの複雑なキャラクターの主人公を熱演していまして、「スパイダーマン」に「偉大な力には大きな責任が伴う」というテーマがあったように、この作品では、「悪を裁くときには慈悲の心がつきまとう、それが悪との一線を画す」というテーマが登場します。「目には目を」という復讐を否定し、全てを滅ぼす神の視点も否定する主人公の姿には共感できるものがありますし、これが9.11以降に作られた映画なんだということも再認識させてくれます。
また、この映画は大変豪華キャスティングを組んでいまして、リーアム・ニーソンを始め、執事役のマイケル・ケインに、新兵器係のモーガン・フリーマン、さらにバットマンに協力する刑事にゲイリー・オールドマン、さらに脇にルトガー・ハウアー、ライナス・ローチといった面々を揃えて、ドラマとしての格をあげています。特にキャラがはまるとは言え、執事アルフレッドを演じたマイケル・ケインが笑いを取りながらも、見事な存在感で印象に残ります。また、ヒロインを演じたケイティ・ホームズも恋人的な美形ヒロインというよりは、主人公を引き立たせる脇役として光っていましたし、意外なキャスティングのゲイリー・オールドマンが正義というには弱いけど善意と意志を持つキャラクターを演じて見事でした。
脇のキャラクターが主人公を支えながら、物語の展開の中でバットマンというメインキャラクターを作り上げていくという構成は成功していまして、ラストで画面が暗転して「バットマン・ビギンズ」とタイトルが出るとびしっときまるのですよ、これが。
一方で、バットマンの敵側の方は、これまでのシリーズとは逆で、影が薄くなってしまいました。ラーズ・アル・グール率いる影の軍団も、前半は雰囲気だけでかっこよかったのに、後半のゴッサムシティでの活劇になってしまうと精彩がありませんでしたし、キリアン・マーフィが好演しているスケアクロウも協力な武器を持ってる割にはキャラが立ちませんでした。渡辺謙も同様で設定もあるのですが印象薄かったですし、リーアム・ニーソンが一人で気を吐いていたという印象です。普通ですと、敵役が主人公を引き立てる役回りになる筈なのに、引き立て役を他の連中にさらわれてしまったという感じでしょうか。
ゴッサムシティでの活劇はSFX中心で、なかなか迫力あるものに仕上がってます。ただし、全体のタッチが第3,4作のCG全開というよりは、第1作のミニチュア中心のエフェクトに近いものになっているようで、あまりカメラを振り回さない見せ方もあって、落ち着いた印象を与えています。前半のロケとSFXの組み合わせは、007シリーズの絵を思わせましたもの。
映画のラストでも、まだゴッサムシティは混沌としており、バットマンの活躍はこれからだという見せ方になってはいますが、しかし、バットマンというシンボルが完成したということで、これでシリーズが終わってもおかしくはない結末にはなっています。そういう意味ではまっとうな1本の映画としてきちんとクローズしていますし、これで決着の方がいいのかも。
お薦め度 | ×△○◎ | 豪華キャストが物語をきちんと支えているのがうれしい。 |
採点 | ★★★★ (8/10) | ストーリーよりもキャラの印象が強いのはいいのか悪いのか。 |
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