written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
ロシアンマフィアから核兵器の取引の約束を取り付けたCIA、ところがその取引する役のエージェントが対立する組織に殺されてしまい、取引がおじゃんになりそう。しかし、死んだ男には生き別れた双子の弟ケヴィン(クリス・ロック)がおりました。ダフ屋とハスラーをしている弟を連れ出して、無理やり、死んだ兄の身代わりをさせようとするのです。でも、その取引は命が危険なヤバいものでして、CIAのオークス(アンソニーホプキンス)としては、あまり乗り気ではなかなったのですが、果たして、核兵器の取引までこぎつけることができるのでしょうか。
核兵器の恐怖を描いた映画というと、今年は「トータル・フィアーズ」、ちょっと前には「ピースメーカー」といった作品がありました。今回もそういう売り方をしていたので、テロの映画だと思っていました。確かにクライマックスは核爆発のサスペンスになるのですが、それは映画の本筋ではないようでして、むしろ、CIAのオークスと、兄の死によって事件に巻き込まれてしまったケヴィンのバディ(コンビ)ものの一編に仕上がっています。映画の前半できっちりと時間をとって、二人のキャラクターを丁寧に描写し、両者に共感できるように観客をリードしてから、事件の方へ入っていくあたりはうまいと思いました。
「アルマゲドン」「パール・ハーバー」といった大味な大作で知られるジェリー・ブラッカイマーが、名優アンソニー・ホプキンスと職人監督ジョエル・シュマッカーと組んだというのがちょっと意外だったのですが、映画としては、その三者のいいところが出たと言ってよいと思います。ストーリーとしてはかなり無理があって、ご都合主義な展開にも思えてしまうのですが、登場人物を丁寧に描くことで、ドラマのアラが気にならず、映画として楽しむことができました。このあたり、どんな題材であれ、娯楽映画としてきっちり仕上げるシュマッカーのうまさだと思います。
特にCIA側のメンツを脇のキャラクターに至るまで、きちんと描き分けているあたりはうまいもので、バカにされてる上司の扱いのさじ加減や、女性局員の扱いなど、最近の映画だと、余計だからとカットされてしまいそうなところもきっちりと描いていて、それが、物語のアラを埋めて、人間ドラマとしての厚みを加えているという感じです。アンソニー・ホプキンスは、彼ならではという役どころではないのですが、彼のおかげで映画に奥行きが出ました。ラストで、ケヴィンとの別れのシーンが単なるおまけでなく、必然性のあるシーンになったのも、彼があってのことでしょう。また、一方、クリス・ロック演じるケヴィンも、最初は金目当ての協力から、自分の正義感へと行動の動機が変わっていくところを丁寧に見せることで、愛国心で自己犠牲をいとわないCIA局員と一線を画すキャラクターになっています。
また、シリアスな設定なのに、全体にユーモアを散りばめて、結構笑えるエピソードも多いのも娯楽映画としての得点を稼いでいます。その笑いの部分がシリアスな部分と水と油にならないあたりが、演出力なのだと思います。
クライマックスはアメリカで核が爆発するかというサスペンスになるのですが、ここは展開に無理があるところを、演出でテンポよく丸め込んだという感じでしょうか。この部分だけは、それまでのテンポや展開とは異なる今風の映画の荒っぽさが感じられてしまったのは残念でして、特に悪役側がステレオタイプのキャラクターになっていて、あまり説得力がないのは、役者を揃えたのに勿体ないという印象でした。
とはいえ、映画としての押さえどころをきちんと押さえてあって、娯楽映画として楽しめて、後味も悪くないこういう映画をもっと出てきて欲しいと思います。アクション映画だけと、それだけじゃないプラスアルファが感じられるこういう映画がアベレージであって欲しいと思うわけですが、なかなかそうもいかないのが現状のようです。
お薦め度 | ×△○◎ | 人間味あるサスペンスが好感度大、役者で見せる。 |
採点 | ★★★★ (8/10) | 職人監督シュマッカーの細やかな演出が光る一品。 |
|
|