オータム・イン・ニューヨーク
Autumn in New York


2000年09月23日 静岡 静岡有楽座 にて
オジさんと若いヒロインの恋愛直球勝負。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


ウィル(リチャード・ギア)はレストランのオーナーです。二枚目で金持ちで、女にもモテモテの中年プレイボーイ。そんな彼がある日知り合った娘シャーロット(ウィノナ・ライダー)は22歳と娘と言ってもいい若さ、それも道理で彼が昔付き合った女性の娘だったのです。そこは如才ないウィルですから、シャーロットともいい関係になってしまうのですが、彼女には実は心臓に持病があり先が長くなかったのです。段々、本気でシャーロットにひかれていくウィル、シャーロットも大人の恋にちょっと有頂天。でも、シャーロットを病魔は確実に蝕んでいきます。ニューヨークを舞台に展開する絵に描いたようなロマンスの結末はいかに。

金持ちで女にモテモテの二枚目中年をリチャード・ギアが演じるというのは、何だかヒネリも何もないなあと思ってましたが、本編を観ると、これが本当にヒネリのないストレートな恋愛ドラマになっていました。中年男と若い娘の恋に死病のオマケつきという定番の設定です。「シュウシュウの季節」で大自然をバックに極限の恋愛を描いたジョアン・チェンが今回は大都会を舞台に、コテコテのラブストーリーに挑戦しました。

いわゆる美男美女のカップルで、その上お金持ちで、生活感のまるでない恋愛模様というのは、個人的にはあまり趣味じゃないのですが、それを絵に描いたようなリチャード・ギアとウィノナ・ライダーが演じることで、虚構のドラマとしての説得力が出ました。ギアの演じる役どころは「プリティ・ウーマン」とほとんど同じなんですが、彼が演じると、二十歳そこそこの小娘なんてイチコロに参ってしまうだろうなあって納得できますもの。一方のウィノナ・ライダー演じるヒロインの方は、その恋愛にどっぷりと浸り込んでしまう、よく言えば純粋、悪く言うと思い込みの強い女性です。そんな二人の恋の展開はメロドラマの定番をきっちりと押さえています。ここまでまっとうに恋愛に徹した展開も珍しいかもしれません。大人の恋にはしゃぐシャーロットと、遊びのつもりがだんだん後ろめたくなってくるウィル、ニューヨークのロケーションをバックに二人の恋は多少の紆余曲折を経て、確かなものへと変わっていきます。

ウィノナ・ライダーのヒロインぶり、それも徹底したがかわいいのですが、この人「エイジ・オブ・イノセンス」「クルーシブル」などで、凄みのある女のコワさを名演しているだけに意外な気もしました。二枚目中年からのお誘いに舞い上がってしまうところから、若い娘らしい嫉妬の感情、さらには自分が今恋愛しているということ確認したくて仕方がない様子まで、若い娘にありがちな感情を的確に演じてみせました。

この絵に描いた恋愛を支える脇の人間がなかなかよくって、映画に潤いを与えています。レストランのバーテン、主人公の娘、ヒロインの祖母といった面々が二人の恋愛を影でサポートするというのが単純構成のドラマに奥行きを与えています。アンソニー・ラパグリア、ヴェラ・ファミーガといった面々が渋い味わいを出し、スターとしての輝きを持つ主演二人とうまいコントラストを作りました。

とはいえ、物語は主人公二人を中心に展開していきます。ジョアン・チェンの演出は病気の部分で出来る限り愁嘆場を避け、さらにはちょっと意外なエピローグまでつけて、悲劇ではない恋愛映画に仕上げています。その分、ドラマチックな盛り上げというものはあまりなく、全体を柔らかいタッチでまとめていますので、そこに好き嫌いの出る余地はありましょう。私は、たまにはこういうまろやかな味わいの恋愛映画もいいなあという気分で観ていました。何しろ、最近の映画だと下手をすれば過去の映画のパロディにしかならないような題材を、丁寧に今のニューヨークのドラマとして作り上げたのですから、その点は評価したいですし、ウィノナ・ライダーのファンなので、彼女をじっくり見せてくれるこの映画のポイントは結構高いです。

クー・チャンチェイの撮影はロケのシーンが美しく、また、ガブリエル・ヤードの音楽が、このドラマを華麗に彩っています。


お薦め度×脇役陣をうまく生かした演出が光ります。
採点★★★☆
(7/10)
愁嘆場を避けて全体をまろやかに仕上げています。

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