written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
80歳になる奥村和一は、終戦後も上官の命令で中国にとどまって、中国国民党と共に戦いました。そして、捕虜となり帰国した彼らは終戦以後は勝手に国民党のために戦ったとされ、日本政府は補償対象とせず、彼らが日本軍の司令官の命令で、終戦後も兵士として中国に残された事実を認めようとはしません。戦後60年が過ぎ、事実を知る証人の多くはこの世になく、司法は彼らの訴えをろくに審議もせず控訴棄却としたのでした。
戦争当時、奥村氏は初年兵だったそうです。その奥村氏が80歳というのですから、今のいわゆるお年寄りと呼ばれる人の多くは戦争を知っていても、兵士として戦った人で存命の方はごくわずかなのではないのでしょうか。いったい戦時中、中国で日本軍は何をしてきたのか、これまであまり語られることがない歴史の闇の部分にスポットをあてた映画ということになります。
この映画の中で語られる物語は二つあります。まず、終戦後、日本へ帰還するはずだった兵士を「祖国復興のため」という名目で中国に残留させ、国民党につかせて共産党と戦わせた日本軍司令官がいたこと。奥村氏は彼らによって終戦後も日本軍人として戦わせられた一人です。さらにひどいことに帰国したら、今度は、終戦後の戦闘行為は自らの意志で行ったこととされ、軍人恩給ももらえなかったのです。これは国が彼らを裏切ったことになります。そしてもう一つの物語は、中国で軍事教練の仕上げとして、中国人の刺殺訓練があったということ。奥村氏は初年兵として、銃剣で縛られた中国人を度胸試しとして殺したのです。
奥村氏は自分がそこにいた経験から、中国での軍事行動を侵略戦争だと言い切ります。彼は、自分は、当時、初年兵という下っ端であったこともあって、戦争の全貌を知りえなかったことが心残りになっており、中国へ再び渡り、自分たちの行為が中国人にとってどういうものだったのか、どういう経緯で自分が中国国民党に売られてしまったのかを知ろうとします。この中で、かつての中国国民党の参謀だった老人に会うのですが、彼が「日本軍と中国国民党の間に密約があったのは事実だが証明はできない。今はもう歴史として見るべき問題ではないか」と淡々と語るところが大変印象的でした。日本人なら、こういう考え方はまずしないでしょうが、こういう達観も一つの考え方としてはありなのかもしれないと気付かされました。かつて、日本軍に強姦された女性が、奥村氏に対して「自分のしたことをご家族に話してもよいのではないですか」と静かに語りかけるシーンなど、「中国人の考え方は共産党の反日プロパガンダに染められている」という日本での見せ方はホントかなあと思わせるものがありました。
奥村氏は大変強い人で、自分のした残虐行為にも向き合いながら、それでも自分たちを売り飛ばした日本軍とそれを認めない日本国への怒りをあらわにします。特に印象的だったのは、自分は、度胸試しをやらされただけだが、これで戦争が長引いたり勝っていたりしたら、新兵たちに度胸試しを強要する立場になっていただろうと語るところでした。彼は自分が戦争というシステムの中に組み込まれていけば、虐殺も強姦もやっていただろうと思っています。だからこそ、戦争はいけないと語る、彼の言葉は重いです。大東亜戦争を負けた戦争だから悪い、勝てばよかったという風潮が最近起こってきています。そんなことはない、戦争の実相を語り継いでいれば、そんな発想にはならないはずなのに。少なくとも、終戦直後は日本は負けてよかった、勝っていたら軍国主義がますます強くなっていただろうという考え方が主流でした。終戦による左翼思想の復活だけで、そういう考えが強まったわけではなく、戦争の実態を知っている人々の想いが、どんな戦争もいやだという空気を作っていたのだと思います。
結局、奥村氏らの控訴は棄却されてしまいます。これを認めれば、日本はポツダム宣言受諾後も軍事行動をしていたのを認めることになるから、関係者の死を待って、事実を葬ろうとしていると、奥村氏は言います。私からすろと、もっと単純に「役人はミスしない、政府は間違いをしない」というウソをつきとおそうとしているだけのように思えます。日本という国を悪く言いたくはないけれど、この一件については、弱いものを虐げている国だと言えるでしょう。やったこととして日本人拉致を認めた北朝鮮よりも、恥を知らないと言われても仕方ないかも。ともあれ、この映画は、一度は観ておくべき映画だと思います。日本国と日本人の加害者としての顔を知らないで、特攻や大和に涙するだけでは歴史を半分しか知らないことになると思うからです。
お薦め度 | ×△○◎ | 戦争の語り部がいなくなることの怖さがひしひし |
採点 | ★★★★★ (10/10) | 戦争を語り継ぐための映画として、歴史的価値があると思います |
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