written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
シャロン(ジェニファー・ロペス)はバリバリの女性警察官、そんな彼女がある時、銃撃され、追跡したものの逆襲されて、撃たれそうになります。すると、どこからか現れた男が間一髪彼女の命を救い、銃撃犯も無事に逮捕されました。仕事明けのバーでシャロンは命の恩人であるキャッチと名乗る男(ジム・ガヴィーゼル)と再会し、二人は恋に落ちます。しかし、キャッチという男には謎が多く、彼の過去は全くもってわかりません。一方、シャロンには、家族に暴力を振るう父親を警察に通報したという過去があって、父母や兄との関係がぎくしゃくしていました。お互いに過去に縛られているらしいシャロンとキャッチですが、二人の恋は果たして成就するのでしょうか。
キャッチと名乗る男の正体が最初はよくわからないこともあって、これはひょっとしてミステリーかスリラーなのかなって印象も持ってしまうのですが、実はこれがかなりマジメなラブストーリーであり、人間ドラマとしても直球勝負しているのです。監督のルイス・マンドーキは「男が女を愛する時」や「メッセージ・イン・ア・ボトル」などで、スター映画の中に家庭と恋愛のリアルな脆さを持ち込んで、一筋縄ではいかない映画を作る人ですが、今回はコアにシンプルな恋愛ドラマを置きながら、サブプロットとして、PTSDとDVという最近のキーワードを盛り込んで、一癖ある映画に仕上げています。
PTSDというのは、阪神淡路大震災や、9.11ニューヨーク同時多発テロなどでクローズアップされた、心的外傷後ストレス傷害と呼ばれるもので、どうやらキャッチには、この引き金となるような過去の体験をもっているようなのですが、それと向き合うことを抑圧しているらしいのです。彼の記憶にフラッシュバックされるイメージがラスト近くで一つの事件にまとまるのですが、それを克服できるのかどうかが、この映画の一つのポイントになっています。
また、DVというのはドメスティック・バイオレンスといういわゆる家庭内暴力のこと。この映画のヒロイン、シャロンは父親の家庭内暴力を警察に通報したことで、他の家族から総スカンをくってしまいます。そして、事情が複雑なのは、父親は母親や兄に対してひどい暴力を振るっているのに、シャロンには手を上げたことがなかったのです。でも、シャロンは母や兄を守るために、警察に通報し、その結果、家族全員から浮き上がってしまいます。なかなか顕在化しない家庭内暴力、いや家庭内虐待ですが、結局は家族の問題として片付けられてしまうあたりが、日本もアメリカも変わらないというところがなかなかにショッキングでした。そして、正しいと思ってしたシャロンの行為によって、彼女は家族から阻害されてしまうのです。甘いラブストーリーにしてはずいぶんシリアスで重い設定を持ってきたものです。そして、シャロンと家族の関係は修復されるのかどうかは、本編でご確認頂きたいのですが、そう来るか、と思うようなシビアな現実が突きつけられます。
ジェニファー・ロペスが常に突っ張って仕事しているシャロンにピッタリとはまる演技で、なかなかに見せます。彼女の怒りや苛立ちや孤独が観客にストレートに伝わってきて、共感を呼ぶのですよ。これは彼女の演技力か、キャラクターを活かしたマンドーキの演出力なのか、ともあれ、シビアな設定でも、ラストに暖かい余韻を残すことができました。一方、恋愛ドラマの部分はかなりベタな展開でして、お互い重いものを背負ってる割には、若いもんがイチャついてるような感じなんです。でも、それがリアルに感じられるあたりが面白いところで、実際重いものを背負った人間がラブラブになっちゃいけない理由はないわけでして、「この秋唯一のラブストーリー」という謳い文句は結構いいところついてるなと思ってしまいました。
ジム・ガヴィーゼルは線の細い謎めいたキャラクターを好演していまして、スター映画の相手役としては押し出しが弱いものの、リアルなヒロインとうまくバランスをとっています。また、シャロンの相棒役のテレンス・ハワードや、兄役のジェレミー・シストといった面々がドラマにリアルな厚みを与えています。
お薦め度 | ×△○◎ | 恋愛によって、お互いが癒される話ってのも珍しいかも。 |
採点 | ★★★★ (8/10) | ちょっと点数甘いけど、DVの描き方に共感できるところ多くて。 |
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