written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
元アメリカ副大統領のアル・ゴアは、地球温暖化についての講演を世界各地で精力的に行っています。現在、極地の氷河が溶けはじめ、ヒマラヤ山脈の雪の領域が確実に減少してきました。実際に気温の上昇は進んでおり、その原因の一つに二酸化炭素の増加が挙げられています。大気中の二酸化炭素の増加が地球温暖化を招くということは1960年代から言われてきたことでした。今、私たちの未来の生活環境を維持するためには、二酸化炭素を削減する施策を実施し、地球温暖化を阻止することが必須なのです。
地球温暖化が言われるようになってかなり立つようですが、アメリカでは日本ほどの盛り上がりはないようで、京都議定書を批准してないですし、こういう映画が作られること自体、まだ米国内のコンセンサスにはなっていないようです。それでも、ゴアはあちこちで地球温暖化問題を啓蒙すべく各地で講演を行っています。ジョークやアニメまで交えて、地球温暖化の仕組みを聴衆に伝え、さらに多くの実例のスライドから、温暖化が身近で進行中であり、それを防ぐ手立てがあることを訴えます。特に、大気中の二酸化炭素の増加が問題であり、二酸化炭素は人間の文明により、ここ40年でかつてないほどの増加を示しているのだと説きます。
なるほど、プレゼンテーションのうまさはさすがは大統領選にも参加してきているだけあって、大変説得力のあるものになっています。ハリケーンカトリーナの原因も温暖化にあり、このまま、温暖化が進めば、海面は上昇し、世界の沿岸都市は水没し、雪解け水の元となる雪がなくなれば、大きな水不足が発生するのだと言われては、これは何とかしなければという気分になります。この映画のいいところは、ひたすら破滅の危機を煽って、観客を脅そうとしない点にあります。大変な未来が予測されるけど、行動を起こせば、事態は改善されるのだ、だから、みんな行動を起こしてくれというメッセージには大変説得力があります。ドキュメンタリーというよりは、地球温暖化防止キャンペーン映画だと気付かされます。エンドクレジットでは、この映画のメッセージが文字で示されます。要は「行動を起こしてくれ」ということです。車は燃費のよいものにし、クリーン発電を呼びかけ、節電をしよう、などなど、日本語で言うなら「もったいない」ことをするなとこの映画は語りかけてくるのです。
テレビドラマを多く手がけているデイビス・グッゲンハイムの演出は、ゴアの講演を忠実に再現することに力を傾注しており、後は彼へのインタビューを少しだけ交えるだけに留めています。ただ、ゴアの息子の死を地球温暖化に結びつけるのには無理があったようで、そのあたりから、観ている私の中にもある疑念が湧いてきてしまったのです。どこかに情報操作があるんじゃないかって。
この映画の論理の流れには、いくつかの仮定があるようです。まず、地球温暖化現象が進行しているということ。その原因は大気の層が厚くなり、太陽からの熱を大気内に留める比率が高くなっているからだそうです。大気の層が厚くなるのは、大気中のガスが増えているからで、特に二酸化炭素がここ20年著しく増加しているのです。そして、実際に高地の雪や極地の氷が失われているという事実はその通りだと思いました。でも、二酸化炭素の増加と大気層が厚くなるということの因果関係は語られていません。「地球温暖化」でインターネットを検索してみたのですが、確かに大気が熱を逃がさなくなるから地球温暖化が起こるというのは間違いことのようです。そして、大気中のガスの増加がその原因であることも事実のようです。しかし、私が調べたりないのかもしれませんが、そのガスの筆頭が二酸化炭素であるとは書いてなかったのです。何種類かの大気中の成分の一つであるという書き方でした。
この映画では、大気中の二酸化炭素の濃度がここ20年で、過去数十万年の間に見られなかったほど上昇しているというデータを示しています。そして、私たちの生活を変えていくことで、その二酸化炭素濃度を1970年代まで戻すことができると言います。うーん、確かにそうなのかなあって気はするけど、それで、地球温暖化が食い止められるとは誰も言ってないんですよ。ひょっとして因果関係があまり明白になってないのかなって気にもさせられてしまいました。確かに二酸化炭素の増加と地球温暖化が平行して発生しているのは事実らしいですし、大気層を厚くするガスの一つが二酸化炭素というのも事実のようです。でも、地球温暖化の主たる原因は他の要因、或いは他のガスがあるのかもしれないと気付いたのです。
私はこの映画のメッセージを真っ向から否定するつもりはないですし、「もったいない」ことはやめようとも思うのですが、この映画は、地球温暖化の記録映画ではなく、観客をある方向へ誘導しようという明確な意志を持ったメッセージ映画であることだけは、きちんと認識しておきたいと思います。作り方がうまいので、この映画の言うことには反論しにくい(ツッコミづらい)のですよ。そして、こういう反論することがタブーのように思えてくるものには要注意だと思うわけです。
とはいえ、この映画を観て、地球温暖化を検索したり、他の本も読もうかなという気分になったのですから、映画としては、一見の価値はあります。
お薦め度 | ×△○◎ | 地球が近い将来かなりヤバいってのが実感できます。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 政治的なプロパガンダの匂いを嗅ぎ取ると疑問点も出ちゃうんだよなー。 |
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