written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
郊外の一戸建てに住むレスター(ケビン・スペイシー)は妻キャロリン(アネット・ベニング)と高校生の娘ジェーン(ソーラ・バーチ)にバカにされてるリストラ赤信号のサラリーマン。キャロリンは家を売るお仕事をしているのですが、商売は今イチで、ジェーンは隣に住むヘンな奴リッキーと微妙な関係です。学校で、ジェーンの友達のアンジェラを見たレスターが、なぜかアンジェラにお熱を上げてしまいます。マッチョが好きと言われてシェイプアップに励んだり、冴えない中年が変な頑張りを見せ始めます。一方、キャロリンの方は不動産王と不倫のお楽しみです。こんな感じでなんとなくバランスを保ってきた一家に運命の夜が訪れるのでした。
アカデミー作品賞や、主演男優賞、撮影賞など、あちこちで評判のよい作品です。予告編を観た限りでは、何だか一風変わったホームドラマという印象でしたが、実物を観てみれば、うーん、面白いけど説明が難しいです。色々な要素を郊外の一家族に様々なキーワードを織り込んで、今の空気を表現したという感じでしょうか。逆に言えば、今が旬の映画であって、数年後に見ると、こういう時代もあったんだよねと思うような映画ではないかしら。
主人公のレスターは、リストラ寸前だし、夫婦仲もよくなくて、あんまり思慮深いタイプでもなく、女房や娘に軽く扱われても強く言い返せない、かっこわるーいオヤジです。娘の友達を見て、その白昼夢にニンマリするあたりは、かなり情けない。一方のカミさんの方は、不動産屋でキャリア志向でありながら、商才はあまりなさそうで、ストレスの塊を不倫で解消しています。娘はそんな両親をほとんど無視状態で、胸の大きさを気にするありがちな高校生。うーん、日本でもありそうな家庭なのかな。
でも、この一家は見た目はそれなりにマトモです。ところがこの隣に住んでる一家が見た目からビョーキ入ってます。ダンナは自己紹介時に陸軍大佐と名乗る軍人さんで、一家を仕切る独裁者タイプ。でも、カミさんは感情を表に出さない、生きてるのか死んでるのか、よくわからないタイプ。息子は、父親には絶対服従していくるけど、高校生のくせにドラッグの売人で稼いでいて、さらにビデオカメラで隣家を盗撮しているという、かなりおかしな奴。このイカレている一家もそれなりのバランスはとれているのですが、レスターの一家に比べたら、見た目からして、かなり変です。しかし、この二つの家庭の違いはどこにあるのかと言われると、紙一重じゃんという気がしてくるのが面白いところです。
登場するキーワードは、リストラ、ドラッグ、銃、ゲイ、セックスレス、家庭内暴力、ロリコン(?)といったところでしょうか。考えてみれば、銃以外は日本でも該当しそうなネタが結構あります。ただ、日本との違いは家の大きさでしょうか。同じネタを日本で作っても、とてもシネスコ画面の映画にならないと思うのは、居住空間の広さがまるで違うからでしょう。
主人公が奥さんとまるでうまく行ってないのに、娘の友達の女子高生にメロメロになってしまうというのはずいぶんな話だとは思うのですが、そのアブナさを曲者ケビン・スペイシーがさらりとこなしたという印象です。隣家の主人を演じたクリス・クーパーが「遠い空の向こうに」のかっこいい父親とはうって変わったあぶねーオヤジを怪演しました。また、スペイシーの娘役が、「愛に翼を」「パトリオットゲーム」などの名子役だったソーラ・バーチでして、「ああ大きくなっちゃって」と思うのは私も主人公と同系列のオヤジになってしまったのか。(だって、脱いじゃうんですよ、この子)主人公の奥方のアネット・ベニングは今回は周囲の強烈なキャラに食われてしまった感もあって、ちょっと気の毒な気もしましたが、欲求不満な中年女性を軽々と演じたという感じです。
1980年のオスカーは同じような崩壊家庭をうーんとシリアスに描いた「普通の人々」でした。その20年後にオスカーをとったのがこの映画だと思うと、その20年の間にアメリカも結構変わってきているのかもしれません。一時期アメリカの娯楽映画がやたらと「ファミリー」というキーワードを盛り込んだ時期がありましたが、結局行きついた先がこの映画なのかと思うと、興味深いものがあります。そして、何年かの遅れをもって、日本もこうなっていくのかなという気がしてくるのでした。
お薦め度 | ×△○◎ | これが現代アメリカのツボを押さえてるってこと? |
採点 | ★★★☆ (7/10) | キーワードのちりばめ方が面白いです。 |
|
|