オール・アバウト・マイ・マザー
ALL ABOUT MY MOTHER


2000年07月20日 東京 シネセゾン渋谷 にて
悲しいけど強くてやさしい女性たちの物語。


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


臓器移植コーディネーターのマヌエラ(セシリア・ロス)は最愛の息子を彼の誕生日に交通事故で失います。実は彼女には息子に隠していた秘密がありました。それは息子の父親のことです。マヌエラはかつての夫に息子の死を告げるべく、バルセロナへと向います。しかし、彼は同居人の金を盗んでそのまま行方不明でした。一方マヌエラは、わけありのシスター、ロサ(ペネロペ・クルス)、舞台女優のウマ(マリサ・パレデス)と知り合いになります。それぞれの悲しみや事情を抱えた女たちですが、マヌエラとの関係の中で癒され、そして明日への希望を見出していくのでした。で、父親はどうなったのかと申しますと.....。

アカデミー賞の外国語映画賞を始め、あちこちの映画祭で賞を総なめ状態の評判の高い映画です。予告編を観ると、息子の父親を捜すオバサンのロードムービーかと思ったのですが、中身はちょっと違いました。マヌエラを中心とした女性陣の群像ドラマという感じでしょうか。しかし、個々の女性の抱えるドラマはどれも一筋縄でいかないものばかりです。この先はストーリーの内容に触れますので白紙で映画に臨みたい方はパスしてください。

ここに登場する女性陣の抱えるドラマはなかなかに過酷。マヌエラの夫というのは突如ゲイに目覚めてしまってそれっきりですし、ウマはレズの恋人との仲がうまく行ってません。またロサは尼さんの身で妊娠してしまい、その相手がマヌエラの元の夫、そしてHIVに感染していたのでした。そのロサの母親は、ボケた夫を抱えながら、娘との関係はぎくしゃくしてます。さらに女装の娼婦アグラードはこんな仕事から足を洗いたいのに思うに任せていません。

こんな連中の集まりなのに、ドラマが湿っぽくならないのです。誰もが悲しみを抱えて生きているのに、それが恨みや妬み、グチにつながらないのが清々しい印象を与えてくれます。ここがただのオバさんの集まりとは違うのですよ。悲惨な設定であっても、それをグチや恨み言に変えないエネルギーは単にパワフルなだけではない、やさしさの連帯感から来るように思えます。ここには陰口や苦労自慢で盛り上がるのではない、やさしさの癒しがあります。誰もがこんなふうにはいかないということで、現実を美化しすぎているという見方もあります。グチの一つも言うのが人間だということもできるのですが、この映画では、決して過酷な現実を否定せず、それに対してしなやかに生きぬく女性たちの姿が描かれていますので、この希望の視点はきれい事ということで、切り捨てる気になれないのです。ラストが何だか出来過ぎのような気もするのですが、この神様のご褒美のような結末もうれしく観ることができました。

よく「女の敵は女」って言いますけど、この映画は違います。女だから女の味方は女なのです。そして、それは女性という性別だけではなく、女装娼婦のアグラードも彼女たちの仲間ですし、マヌエラの元夫に対する視線も暖かいものが感じられます。他人をさげすんだり貶めたりすることで癒されるってのも、否定できない(私も実はそういう面を持ってますもの)のですが、それでも、この映画に出てくる彼女たちの生き方には憧れと共感を感じてしまいます。そう思えるのは私が、彼女たちを客観的に見ることのできる男性だからかもしれないですが、女性からすると別の感じ方があるかもしれないです。脚本監督のペドロ・アルモドバルは男性ですから、女性からすると「??」と思う部分があるかもしれませんから。

でも、見終わってしばらくしてからじわじわと来るものがあります。きれい事でまとまりきれない部分が後からこたえてくるとでも言うのでしょうか。全てがハッピーエンドとは言えないし、この先でも、彼女たちは、辛いことに出会い、悲しみを乗り越えていくこともあるだろうと思えるのですが、それでも、自分の全てを自分として受け入れていくような予感がするのです。そして、そんな風に思えるこの映画がいとおしいもののように感じられたのでした。


お薦め度×女性と男性で見方が違うかも、カップル向けかな。
採点★★★★
(8/10)
観終わってしばらくしてからじわじわとくる感動。

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