アダプテーション
Adaptation


2003年09月06日 神奈川 川崎チネBE にて
映画の脚本書いてるうちにとんでもない事件に巻き込まれて.....


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


「マルコビッチの穴」の脚本チャーリー・カウフマン(ニコラス・ケイジ)は、次の仕事として原作ものの脚色を手がけることになります。原作はノンフィクション「蘭に魅せられた男」という蘭コレクター、ジョン(クリス・クーパー)と原作者スーザン(メリル・ストリープ)の交流を描いたもの。しかし、なかなか筆が進みません。もともとノンフィクションの原作からストーリーを構築するなんてそんな簡単には行きませんもの。一体、この本の核は何なのか、作者と蘭コレクターの間に何があったのか、現実と想像がふくらんでいく一方、脚本の締め切りは刻一刻と迫っているのでした。

まず、この映画の予備知識として、「マルコビッチの穴」の脚本家チャーリー・カウフマンなる男は実在するということを認識しておく必要があります。さらに、「蘭に魅せられた男」という本も実在するということも知っておいた方がよいです。つまり、チャーリーもジョンもスーザンも実在する人間なのです。また、この映画の脚本はチャーリー・カウフマン自身だということにも要注意です。

映画そのもの展開は、脚本を書こうと思うが書けないチャーリーの苦悩と、スーザンとジョンの関係が並行して描かれて行き、二つのドラマが最後に一つにまとまるという構成をとっています。チャーリーは脚本をなかなか書けなくて、恋人ともうまく行っていません。また、双子の弟ドナルドはホラーのすごく面白い脚本を物したようです。そんな、周囲の状況をコミカルに描いていくスパイク・ジョーンズの演出は快調でして、文筆業の人なら、彼の葛藤って理解できるのではないかしら。私はタダのサラリーマンのなので「ふーん」てなもんなのですが。

原作を扱いかねたチャーリーはだんだん原作に登場する二人により迫ろうとするのですが、このあたりから、物語がおかしな方向へ進み始めます。チャーリーとドナルドの二人で、スーザンを尾行したりして、その挙句に彼女の意外な秘密までたどりついてしまうのです。本編でご確認頂きたいのですが、後半はかなり物騒な話になっていきます。実在する人間を使ってここまでやっていいのかという気がしました、やりすぎじゃないの?チャーリー。中盤までは、映画全体がプラクティカルジョークなのかと思っていたのですが、この結末を笑えと言われても、淡白な日本人である私にとっては笑える結末ではないですし、後味もよくありませんでした。

一応、チャーリーは恋人とのよりも戻って、明るい展開になってそれなりにハッピーエンドになるのですが、実在するスーザンとジョンは置いてけぼりなのはいかがなものかと思ってしまいました。もともとの設定からして虚実入り混じったところから始まるのですが、その虚実取り混ぜた物語をさらに混乱を招くようにこね回したという感じなんです。チャーリーが原作をもとにして仕上げた脚本がこの映画の脚本だという入れ子の構造も、その仕掛けのためだけに作り上げたような印象でした。全体として、狙いは面白いのだけど、その見せ方は、観客である私にとって心地よいものではありませんでした。

この映画の原作に沿った部分、つまり蘭と蘭コレクターの話は大変面白く、そこにスーザンが魅かれていくという展開も見応えがありました。その原作を脚本家が自分の話を織り込んで、かつフィクションも追加することで、話を別のものにしてしまったように見えます。よく、原作が映画化されるにあたり、原作者は映画が自分の書いたものとはまるっきり別のものになることを覚悟しなければならないのだそうです。映画にするために脚色された結果、映像化されたものは、原作からかなり離れたものになることがあり、設定や登場人物が変わったり、結末が変わってしまうのも珍しくありません。そう考えると、いつも原作を別物に変えてしまう脚本家がそのことを露悪的に描いた作品だということもできます。ストーリーとしては淡々としたものらしい原作を、ドラマチックに下世話にでっち上げたということもできましょう。そう考えると、チャーリー・カウフマンのナルシスティックなやりたい放題の映画にも見えます。

ニコラス・ケイジ、メリル・ストリープに、この映画でオスカー受賞したクリス・クーパーといった演技陣が見事なアンサンブルを見せます。また、この映画に登場する女性陣がみんな美形で魅力的なのも特筆ものでした。(そんなの特筆してどーする)


お薦め度×何か仕掛け優先みたいで、乗れないんだよな。
採点★★★
(6/10)
すごく面白い、と見栄張って言うのも何だかなあ。

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