written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
人工知能の技術の進歩は、ついに「愛」を持ったロボットを作ることに成功しました。それの第1号デビッド(ハーレイ・ジョエル・オスメント)が、息子が難病で冷凍状態にあるスウィントン家でした。しかし、その息子が奇蹟的に回復し、また、ロボットらしからぬ感情を持つデビッドはそこに居られなくなってしまいます。廃棄処分をためらスウィントン夫人は森の中にデビッドを置き去りにします。デビッドは、自分が人間になれれば母親の愛情を得ることができると信じ、「ピノキオ」に出てくる女神様、ブルー・フェアリーを探し求めるのですが。
スティーブン・スピルバーグ監督が、スタンリー・キューブリックの暖めていた企画を映画化したということが売り物らしいですが、人間そっくりに作られたロボットの運命を描いたストーリーは、この二人がホントに関わったのかいなと思わせるくらいシンプルなもので、これで、2時間半余を引っ張るのは無理があったというのが第一印象でした。これはロボットだから、それなりにSFになりますけど、親の愛を十分に与えられなかった子供が、そのトラウマを乗り越えて自分のアイデンティティを取り戻すというお話でして、こうまで話を広げなくてもその気になれば、コンパクトにまとめられたように思えたのです。まあ、観方が浅いと言われてしまえば、そうなのかもしれません。
ロボットであるデビッドが、母親となるモニカという女性に愛情を抱くのは、モニカが7つのキーワードを入力すると、そう思うようにプログラムされているからです。これって、鳥なんかが生まれたときに見た動くものを親だと思いこむ、刷り込み現象と同じようなもので、種の違うロボットから「ママ」と呼ばれる人間の心理は微妙なものがあるのではないかしら。確かに生命を持たない人形や、種の異なる犬や猫に愛情を感じるというのはあるのですが、それはあくまで人間側の思い込みでしかないところが、限界であり、また救いにもなっています。(人形に愛されたら?ってそれじゃ怪談になっちゃいますもの。)特にロボットが人間そっくりだから愛情を感じることができるというのは、そのロボットを人間であると信じられるからではないでしょうか。でも、それは一種のまやかしであり、誰かのプログラミングしたロジックを人間の感情と勘違いしているだけに過ぎない、そんなものに愛情を注ぐなんて、ダマされているに等しいというのも説得力があります。
この映画で面白いと思ったのは、中盤に登場する、ジャンク・フェア(フレッシュ・フェア)という見世物でして、これは持ち主のいない廃棄ロボットを集めてきて、かなり残酷な方法で破壊しようというものです。ロボットと言うのにも人間風のものから、人間そっくりのものまで色々ありますが、それが大歓声の中で吹っ飛ばされたり、叩き切られたりするのは、えげつないショーである半面、人間としての尊厳を取り戻す野蛮な儀式ということもできます。人間よりもセックスロボットに快楽を依頼し、子守りロボットに親しんでしまう人間に対して、ロボットと人間の一線を画すようにするためのショック療法とでも言えそうなこのイベントは、それなりの存在意義があると言えるのではないのでしょうか。ところが、ここで一見健気な少年であるデビッドが、その処刑台に引きずり出されると、観客たちは、一斉にブーイングを出して大騒ぎとなり、その騒ぎのスキにデビッドは逃げおおせてしまいます。一見してロボットとわかるものが、燃やされたり壊されたりするのを見て喝采を浴びせていた観衆が、デビッドをロボットじゃないと思ってしまうのです。人間ってダマされやすい動物だとつくづく思わせるのが、笑えますし、人間とロボットの境界線ってのは、結局見た目なんだというのを実感させます。
また、人間が便利だからということでロボットを作りすぎたというのも興味深い視点でした。手とか顔の一部がない人間型ロボットというのは、今の家電品のゴミ、産業廃棄物のようであり、また捨てられて野生化したペットのなれの果てのようでもあります。それが人間に近いほど、人間と同じ感情を持つほど、人間側の身勝手さが際立ってくるという構図は面白いものがあります。ただし、私は所詮メカはメカという立場を取ります。やはり、ロボットは人間の影(写像)であり、実体はないと思うからです。
デビッドは人間に近い感情を持つように作られています。それは、人間そのものと言えるものかもしれないのですが、その中で特に際立つのが「自分はユニーク、自分は特別、他のロボットとは違う」という妙な優先意識です。人間のエゴをもっともわかりやすい形で体現していると言えるのですが、その分、私にとってはかなり目障りなヤツになってしまいました。いるんですよ、自分は他とは違うということが、イコール「自分は他人より優れていて、他の人より特別に扱われる価値がある」と思い込んでる皆さん。こんなヤツに感情移入なんかできません、にも関わらず、この映画の中での、デビッドの扱いは、愛に満ちた存在として肯定されているのです。不幸な人はワガママでも許されるのかあ?という素朴な感想を持ってしまった次第です。
映画は後半、どういうわけか、2000年後に飛んで、「どっひゃー」な展開を見せるのですが、強引すぎてついていけませんでした。その結末は劇場でご確認頂きたいのですが、何と言うか、「七人の侍」に、突然、水戸黄門が現れて、全部をまとめてしまうような、アンバランスな感じがあるのですよ。でも、観た人によってはかなり感動できたという方もいらっしゃるようですから、これは観客を選ぶ映画なのかもしれません。ネタバレ覚悟で言わせて頂きますと、こんなに話を膨らませなくても、ロボットの夢オチで、1時間半にまとまったような気もしてしまうのでした。
お薦め度 | ×△○◎ | 長い割にこの決着は何だかなあ。 |
採点 | ★★★ (6/10) | ロボットに愛されるってのはちょっと気色悪くないのかな。 |
|
|