written by ジャックナイフ E-mail:njacknife@aol.com
マリオン(ヴァレニア・ブルーニ・テデスキ)とジル(ステファン・フレイス)の夫婦の離婚が今成立しました。手続きを済ませた二人がベッドを共にするのですが、結局ぎくしゃくとしたセックスにしかなりません。そして、もう決定的な別れを実感する二人。そこで、物語は過去へとさかのぼり始めます。夫婦間のちょっとした行き違いを暗示させるエピソード。子供が生まれたときジルはついにマリオンに会いにきませんでした。そして、結婚式の夜、マリオンは他の男と一夜を明かしてしまい、最後に二人の美しい出会いのシーンが物語にハッピーエンド臭い印象を与えるのですが、はて、そのココロは?
「まぼろし」「8人の女たち」「スイミング・プール」のフランソワ・オゾンの脚本・監督による、ある夫婦の軌跡、でも逆回しバージョンです。もっと昔の映画は未見なんですが、近作の3本は仕掛けで見せる、一種のミステリー風の作りになっていまして、そこにヒロインの心情をかなり深いところから汲み取って、映像に展開することに成功しています。今回の映画は一見ミステリー風の展開をするのかと思いきや、二人の離婚した理由とか経緯を見せずに、むしろ、男と女の間の細かいエピソードを5つ並べてみせて、「さあ、どうでしょう」と突きつけてくるのです。
昔はよかったのに、今はもう夫婦なんてボロボロの関係なんてのは、綾小路きみまろの独壇場とも言える世界なんですが、オゾンはそれを笑い飛ばすことをせずに、過去にこんなこともあったね、という見せ方でエピソードをつないでいきます。でも、一方で、今の二人にとって何なの?という部分を見せないあたりは、綾小路きみまろよりも意地の悪さを感じさせます。でも、プログラムを読むと、決してシニカルな意図はなくって、「出会いはみんなハッピービギニング」なんだそうです。それも、この監督の巧みなミスリードなのかもしれません。出会いがハッピービギニングだろうが、それが破局への第一歩を踏み出しているのも事実なんですし、そう言われて「はい、そうですか」と納得するほどこちらも若くないのですよ。
二人の離婚に至った理由はほとんど語られません。相互に愛人を作っているようなんですが、過去のエピソードの中にそういうものを垣間見ることはできません。ただし、二人が破局に至る要因と思しきものがあちこちに散りばめられています。しかし、離婚を決意するに至った経緯が描かれないので、どれがどう効いて離婚にまで行っちゃったのかは、観客が勝手に想像するしかありません。
夫婦がジルの兄とその彼氏を家に呼ぶシーンで、ジルがマリオンの見ている前で乱交パーティに参加していたというエピソードがジルの口から語られます。承知の上で、その話を黙って効いてるマリオンの目から涙がこぼれるのですが、この涙の意味は解釈の余地があります。そんなことを語る夫への不信なのか、その時のことを思い出しているのか、自分はもっと夫を裏切っている(そんな事実は映画では語られませんけど)ことに対する自責の涙なのか、その中途半端な見せ方は映画全体に共通しています。出産の時、どうしても病院に行けない、マリオンに面会することができないジル。その理由は明確には示されません。そして、電話でマリオンに「愛してる」と告げたときのマリオンの涙の意味も何となくわかるよな位の見せ方なんです。どれもが致命的な破局へ向う要素にはなり得ないような見せ方をして、観客を突き放してしまうのです。そして、ラストでは美しく幸福な出会いを見せるのです。ただ、そこでも、ジルには恋人がいて、そこに次の火種を予感させるものがありました。出会いの時点でジルと一緒にいた恋人がどうなったのか映画では語られません。その前の結婚式のエピソードでは恋人の話なんて全然出てこないですからね。きっと別れには多少の修羅場があっただろうなあって想像させるだけです。
でも、出会いの一番輝いている二人を最後に持ってくることで、不思議な余韻が生まれます。冒頭のくたびれた二人は寒々とした映像で捉えられており、ラストの二人は輝いて見えます。時系列に並べると、どんなに輝いていても、いつしかその輝きを失われ、全ては無に帰してしまうのよという見え方になりそうな話を、こういう輝いていたときもあったのだから、まだ何とかなるかもしれないよね、という余韻に変わるのです。その違いを単なる詭弁と思うか、それとも、人生の機微は受け取り方一つだと思うか、その判断は観客にゆだねられています。シングルの私にとっては、一度くらいああいうステキな出会いをしてみたいもんだと思っただけ、そこから先は「へえー、所帯持ちも大変だなー」とながめる映画でした。でも、いくら過去をさかのぼったところで、結局は変えられない今に直面することになると思うとかなり意地の悪い映画にも思えてしまいました。
お薦め度 | ×△○◎ | 解釈は観る人にゆだねるあたり、世代によって愛の受け止め方は様々なんだろな。 |
採点 | ★★★☆ (7/10) | 作りの中に皮肉な視点がすごく感じられたのは、私の見る目がシニカルだから? |
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