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2000年10月14日 神奈川 川崎チネグランデ にて
ヨレヨレ警官が証人護送したら、警察を敵に回しちゃった


written by ジャックナイフ
E-mail:njacknife@aol.com


酒浸りの警官ジャック(ブルース・ウィリス)が、夜勤明けに、ある証人を裁判所に送り届ける仕事を仰せつかります。気の進まないジャックですが、その証人エディ(モス・デフ)を車で送り届けようとしたとき、エディが何者かに銃で撃たれそうになります。何とかジャックはエディを連れてなじみの店に逃げ込みますが、そこに現れたのは、かつての同僚フランク(デビッド・モース)でした。どうやらエディは悪徳警官を告発するための証人であり、彼の証言により、フランクやその同僚たちもまずい立場になるのです。エディに銃口を向ける刑事たち、その時、ジャックは刑事に向かって発砲、エディを連れて逃げ出すのです。しかし、警官を敵に回して果たして逃げおおせることができるのでしょうか。そして、裁判所のタイムリミットは刻一刻と迫ってきているのでした。

「オーメン」や「リーサル・ウェポン」など娯楽映画の職人として知られるリチャード・ドナーがブルース・ウィリスを使って、娯楽サスペンスアクションをつくりました。設定はシンプルでして、裁判の証人を裁判所まで届けることができるかどうかというお話です。敵は警官なので、どう転んでもこの勝負、主人公に不利なんですが、果たして無事に当初の目的を果たせるかというのがサスペンスとなります。さらに、この映画には、酒浸りだった主人公が何とか人生をやり直そうと思い始める経過も並行して描かれまして、単に善玉悪玉の戦いだけでない人間ドラマの部分も丁寧に描かれています。このあたりに、娯楽職人の腕を感じさせる、よくできた佳作に仕上がっています。

やたらと口数の多いエディと寡黙なジャックのコンビの逃亡劇は、一種の時間限定のバディムービーと言えます。その逃亡の経過の中で、二人の過去が見えてくるという展開の手際のよさはなかなかにお見事です。特に、ジャックの過去を小出しにしていくあたりの脚本のうまさが光りましたし、エディとジャックが意表を突いた行動をとるあたりもそれなりの説得力を見せて、荒唐無稽にならないあたりは、ドナーの演出によるところが大きいと思いました。

この映画の中では、人は一度道を踏み外してもやり直しができるというテーマがかなり前面に出てきます。果たして本当にそうなのかどうかはわからないけれど、「過去にとらわれていて、今、正しいと思うことができなくなるのはまずいよね」、という描き方には共感を覚えました。時として、それが愚かな行為に見えたり、自爆行為になっちゃうことがあったとしても、今の良心の声に従うべきだというのは、現代に置いて、かなり身近なテーマなのではないかと思います。ただし、過ちを犯した人がやり直すためには、本人だけが頑張ってもダメで、周囲の人々がやり直そうとしている人を受け入れてあげないと実現できません。この映画では、その可能性をきちんと描いていまして、バスに立て篭もった時、ケーキの絵で人質の子供の気持ちをやわらげようとするシーンや、主人公と妹のやりとりなど、単なる娯楽映画以上のドラマの細やかな書き込みが見事でした。娯楽映画だからこそ、小さなエピソードを大事に積み重ねるべきなのでしょうけど、最近のジェットコースター型の映画は、そういう脇道へそれることは観客を退屈させるとでも思っているのかのごとく、ばっさりと切り捨てる傾向があります。この映画は、登場人物に厚みを加えるための手間を惜しまずに、きちんと見せてくれていますので、主人公に共感できますし、後味も単なる事件解決以上の余韻を残すことに成功しています。

ドラマの肉づけがきちんとしてるということになるのでしょうが、悪役側のデビッド・モース演じる刑事の描き方も単なる悪党以上のキャラになっています。彼は、善玉から悪役まで、何でもこなせて、説得力のあるキャラを作れる人なのですが、今回も、有能な悪徳警官というキャラをきちんと演じきっていまして、冷酷な悪役に血を通わせることに成功しています。この人の出る映画は必ずチェックしてまして、どの映画もはずれがなく、最悪でも彼を見ているとモトが取れる貴重な役者さんです。


お薦め度×間違いを犯した人間もやり直せるというテーマはいわゆるビミョー?
採点★★★★
(8/10)
定番のネタを丁寧に作りこんだ娯楽映画のお手本みたいな映画

夢inシアター
みてある記