夢inシアター
採れたて情報館/No.88
ジャックナイフのちょっとサントラ'99年11月その2
さらに新しめのサントラのご紹介をさせていただきます。
ブルース・ウィリスと子役の名演技が光る心理スリラーの音楽を手がけましたのは、「プリティ・ブライド」のようなコメディから「ディアボロス」のようなホラーまで幅広いジャンルを手がけているジェームズ・ニュートン・ハワードです。映画は、ピアノとストリングスによる不気味なホラーサウンドで幕を開けるのですが、アルバムはむしろ静かな描写音楽からじわじわと怖さを増幅させていく構成をとっています。映画の静かな展開にふさわしい静かな木管、ストリングスの調べに、恐怖の予感としてシンセサイザーや弦の中低音部がうなり出すと、「お、来るぞ、来るぞ」の気分になってきます。そして、ストリングスとホーンセクションがドーンとショックサウンドを鳴らしてきます。クライマックスはコーラスを加えて盛り上げてくれるとはいえ、典型的なホラー映画の音楽になっていまして、淡々と展開するドラマに見事にマッチする音になっています。そしてラストのホロリとさせる余韻もきっちり音楽で表現されているあたりにハワードの職人芸を感じさせてまして、音楽として聞くとちょっとしんどいかもしれませんが、これは聞き物の一枚になっています。
「たたり」のリメイクにしては怖くない、でも仕掛けが派手なスペクタクル映画の音楽を最近も作品のペースが落ちない名匠ジェリー・ゴールドスミスが担当しました。この人、オスカーをとった「オーメン」シリーズや「リーインカーネーション」などホラーにも実績のある人なのですが、アルバムを聞く限りはホラー色は希薄で、むしろ、ファンタジックな色合いの強いものになっています。オープニングのカルーセル・ワルツも怖さよりも優雅さが先に立ち、舞台となるお屋敷を描写する音もオーケストラによる不安な音を奏でてはいますが、どちらかというと気の毒なヒロインをやさしく包みこむような音に聞こえてくるのが面白いところです。スペクタクルシーンはシンセサイザーとオーケストラの大競演となって聞き応え十分なのですが、アクション映画のスコアと言われてもわからないくらいの音になっていまして、映画の内容に合わせたということになるのでしょうが、恐怖映画というよりは、遊園地の恐怖映画風アトラクションのBGMのようになってしまったという印象で、それは映画そのものにも言えることなのでした。
レニー・ハーリンによる動物ホラー・サスペンス・アクション・スペクタクルというかなり欲張った内容の映画の音楽を「コン・エアー」「アルマゲドン」などを手がけたトレバー・ラビンが担当しました。もとイエスのギタリストと言われても、私にはさっぱり何のことやらわからないのですが、今回も「アルマゲドン」のラインでヒロイックなサウンドを展開しています。これまでの担当作品の経緯からしますと、ハンス・ツィマーの一派の人のようでして、オーケストラとシンセサイザーをほぼ五分五分に使い、時としてコーラスも交えたハッタリサウンドを鳴らすというのが特徴です。このサントラCDでも、何やらすごいヒーローが登場しそうなダイナミックな音が聞こえるのですが、映画の方は、次に誰がサメ君のエサになるのかわからないというもので、そういう意味では、映画の内容にマッチしたものとは言い難いのですが、それでも、海を描写したスケールの大きなテーマなど聞き所は多く、映画を離れて血沸き肉踊る音になっています。サスペンスシーンのテンポの速い展開、オーケストラぶん回しの大音響サウンドは、「アルマゲドン」と大差ないのですが、今回は幾分かメリハリのある音作りになっていまして、海の描写部分に奥行きが出ました。この音楽もまた、テレビの再現ドラマやドキュメンタリーもので使われそうな音になっています。
16世紀末のベネチアの高級娼婦の物語に、音楽をつけたのは、コメディからシリアスものまで何でも来い、そして高いアベレージを誇るジョージ・フェントンが担当し、ここでも手堅い音作りを見せてくれます。オープニングはやさしいギターソロが無垢なヒロインを描写しまして、そこから、オーケストラが入ってきまして、栄えるベネチアを描写する暖かなテーマへと展開していきます。またストリングスと木管によるヒロインのテーマも美しくラブストーリーにふさわしい厚みのある音が聞き物です。前半はドラマの展開に合わせてコミカルな音も聞かせてくれますが、後半になってドラマチックな展開になるにつれて、音楽もだんだんと暗い影を奏でていきます。そして、裁判からラストに向けての盛り上がりも見事で、映画音楽の教科書のような出来映えです。そして、エピローグでは、オープニングのギターのテーマが再び聞こえてきます。ヒロインの恋心と自由への想いの両方をきちんと音楽に織り込んでいるのが聞き物です。
私のような凡人には、敷居が高いいわゆる芸術映画に属する作品の音楽を、この映画の監督との付き合いの多いエレニ・カラインドルーが担当しました。映画は訳がわからなくても音楽は大変魅力的で、ニューエイジミュージックのアルバムとして映画から離れて聞いても心惹かれる一枚になっています。「永遠」のテーマが室内楽のような小編成のオケで奏でられるのですが、これが単独で音楽として聞いた方がいいくらいの名曲でして、映画の中では饒舌に思えてしまったのが、音だけ独立させることで、そのよさが再認識できました。このテーマは編曲を変えて何度も登場するのですが、特にピアノソロで演奏したナンバーが、切なさが胸にしみる逸品でした。また、間奏曲的に流れる、アコーディオンの爪弾きのようなナンバーも印象的です。静かで透き通るような音でありながら、そこに叙情的な味わいを加えて、聴く者の心の琴線に触れてくるアルバムです。少なくともウォークマンで電車の中で聞くような音楽ではありません。その時間に身を委ねられる環境で聞くべきものと言えましょう。
今回のご紹介CDは全て日本盤が出ています。
ジャックナイフ
64512175@people.or.jp