夢inシアター
採れたて情報館/No.87
ジャックナイフのちょっとサントラ'99年11月その1
ちょっとさぼっていたらずいぶんと新作サントラがたまってしまいました。
ストーリーがちょっと位トウが立っていても、見せ方がクールなSFアクションの音楽を、これまで、ジェームズ・ホーナーの編曲などに参加し、「バウンド」を手がけたドン・デイビスが担当しました。オープニングの不安な導入からオーケストラを駆使した現代音楽がスリリングかつパワフルに鳴り響きます。全体としては無機質、無個性なサウンドが展開されるのですが、ピアノの連弾とか、ホーンの使い方に不思議なインパクトがあり、個々の楽器がきちんと個性を持った音を聞かせるあたりは編曲者でもあるデイビスの底力なのでしょう。インパクト部分の前衛的な音は、昔の「アルタード・ステーツ」を思わせる部分があり、コーラスを交えた盛り上げ部分も聞き応えがありました。映画を観た時はオーソドックスがアクションスコアかと思ったのですが、こうしてCDで聞き直してみると、なかなかに細かく作り込まれた音であることがわかって、さらに興味深いものがありました。映画そのものは、ハッタリとケレン味の合わせ技みたいな内容でしたけど、少なくともスコア部分では、ケレン味を極力排し、ハッタリ部分をグンと拡大したという印象です。もう少し明確なメロディがあってもいいような気もしたのですが、映像と合わせたときにはこれがベストなのでしょう。
人間の本質をつく重厚ドラマの音楽を担当しているのは、サム・ライミ監督とは「ダークマン」「キャプテン・スーパーマーケット」で組んでいるダニー・エルフマンです。ピアノ、ギター、木管(ちょっと尺八風サウンド)などによる前衛的な音楽に、小編成のストリングスが感情の起伏を奏でています。同じような、雪景色を背景に人間の欲望を描いた「ファーゴ」に比べると、音楽そのものは非常にドライで、時として残酷とも思える冷ややかさを感じさせます。また、スリラーとしてのテンションが高まるところに音楽がヒュッと入ってくるあたりの使い方が見事でした。そういう意味では、音楽だけ聞くと淡々とした印象なのですが、これがドラマの中で、ショック、予感といった周囲の空気をきっちりと描写しているのが聞き物です。
血生臭い実録歴史絵巻の音楽を「シャイン」のデビッド・ハーシュフェルダーが手がけました。オープニングからオーケストラとコーラスに厚いテーマががんがんと攻めてくるのがまず聞き物です。予告編やテレビCMでも流れたこの曲が既成曲でなく、オリジナルだったというのが意外だったのですが、このおどろおどろしいテーマが、コーラスの扱いなど、ちょっとオカルトホラーの趣もありまして、まさに波乱万丈のドラマを予感させます。そして、ギタとストリングスによる美しい愛のテーマとなるのですが、ここにも常にオープニングテーマのモチーフが影を落とし、何か不安な予感を感じさせます。低音弦とホーンセクションで重厚な味わいを醸し出しながら、弦の高音部で切ないヒロインの乙女心を歌い上げます。歴史ドラマの要所要所部分では、ドラムの響きにのせて重厚なメインテーマが何度も登場しまして、一種興奮を盛り上げるのに成功しています。一方、不安をあおるシーンでの、ストリングスの不協和音にホーンを加えて重量感を増しているのも聞き物です。また既成曲もモーツァルトのレクイエムやエルガーのエニグマ変奏曲などをおり込んで、ドラマに厚みを与えています。そして、アルバムや映画の中で、既成曲もハーシュフェルダーのオリジナルかと思わせるほど、全体的に統一感のとれた音楽となっています。
インド映画のスーパースター、ラジニカーント主演作。「ムトゥ」のサントラCDもなかなかに楽しい一品だったのですが、今回の音楽を手がけたのはディーバという人です。仏教寺院の中から始まるオープニングナンバーから快調に飛ばしてくれます。何しろ3時間の中に歌や踊りのシーンが強引に割りこむのですが、ミュージカルというよりは、レビューにMTV感覚を加えて、映画でしかできない映像と音のエンターテイメントにしているのです。しかも歌っている中身も日本人にはなかなか新鮮なのです。オープニングナンバーは主人公アルナーチャラムの自己紹介みたいなもんですが、バックコーラス、バックダンサー従えて歌う中身は「若くして働けば年老いてから幸福だ。若いときに怠ければ年をとって苦労する。」なんていう今時は年よりも説教しないようなこと。それをノリノリの音楽で歌われるとなんとも楽しくなってくるのです。主人公とヒロインと恋模様のナンバーもなかなかに楽しいです。主人公が落ちこむシーンもやはりその気持ちをシリアスな曲調で歌います。BGMとしてもタミル語というのがちょっと耳新しいですし、何だか元気になるようなアルバムとしてオススメです。映画をご覧になった方には、あの楽しい雰囲気を追体験できますから、元気のないときに聞いてみるのもいかがでしょう。個人的にはサブヒロインの夢の中で歌われるナンバー「アリアリ」がお気に入りです。
これは、直接のサントラではありませんが特別のご紹介です。「アイズ・ワイド・ショット」のサントラには、この映画で格別に印象的であった秘密クラブのバックに流れるエキゾチックな宗教音楽風の音は収録されていませんでした。その秘密クラブの儀式のバックに流れた不思議な音楽が収録されているのが、このアルバムなのです。ジョセリン・プークという女性のリーダーアルバムなのですが、全体を宗教っぽいイメージでかためて不思議なニュー・エイジ・サウンドを作り出しています。映画の中で一番インパクトのあったシーンの音楽だけに、これを聞けば「アイズ・ワイド・ショット」の世界を押さえたという気分になるという意味でもオススメです。全体12曲の中で映画の中で使われたのは3曲のようですが、通して聞くとあの秘密クラブを一巡りしてきたような気分になれます。アルバム自身は「ノアの洪水」のイメージから発展された祈りをテーマにしたアルバムのようですが、聞いてるうちに何か異世界にどっぷり沈みこむような気がします。
「FLOOD」以外は日本盤を確認しています。
ジャックナイフ
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