夢inシアター
採れたて情報館/No.86


ジャックナイフのちょっとサントラ'99年8月


ちょっとサントラもの '99年8月の巻、今回は新旧取り混ぜてのご紹介です。


レイズ・ザ・タイタニック

1981年のお正月映画ですが、その内容は、タイタニックお宝探しのお話で、面白さは今一つだったのですが、ジョン・バリーによる音楽は冒険映画らしい重量感のあるスコアになっていました。しかし、サントラ盤はなぜか発売されないまま今日に至っていたのですが、今回、シティ・オブ・プラハ・フィルハーモニックが、50分に渡るスコアを再録音しました。映画としては、沈んでいたタイタニック号が水しぶきをあげて浮上するカットしか記憶にないのですが、音楽はファンファーレ風のオープニングからスケールの大きい美しい曲を聞かせてくれます。また、スリリングな部分は007を思わせる高音ストリングスと中低音ホーンの絡みがお見事ないつものバリー節を聞くことができます。とはいえ、アルバムの中盤は007のサントラだと言われてもわからないくらいの定番の音になっていますので、一長一短と言ったところでしょう。しかし、「輝きの海」といい、この作品や「ザ・ディープ」といい、バリーの音楽は海(海面も海中も含めて)を描写すると見事にきまるものだと感心してしまいます。ニック・レイン指揮によるオーケストラの音はバリーの音楽を演奏するにふさわしい重厚な演奏で、特にホーンセクションが頑張っているという印象です。

ファミリー・ゲーム/双子の天使

双子の少女が離婚した両親をもとに戻そうと奮闘するコメディの音楽は、「ボルケーノ」「アビス」といったスケールの大きな作品から、「花嫁のパパ」「マウスハント」といってファミリーピクチャーまで幅広くこなすアラン・シルベストリです。今回は後者のパターンの典型といえるべきもので、ヒロインの双子の少女を描写する軽やかなテーマは小編成オーケストラながら、楽しいオープニングですし、ジャズタッチのコミカルな音楽は、こういう映画の定番ですが、ソツのない音作りはさすがに職人芸を思わせるものがあります。

エントラップメント

ショーン・コネリーが大泥棒を演じるサスペンス映画の音楽を担当したのが、「告発」「フラッド」など重厚シリアスものから、アクション映画まで幅広く手がけているクリストファー・ヤングです。今回もフィルハーモニア・オーケストラを使ってスケースの大きなアクション音楽を鳴らしてくれます。この人のいいところは、アクションシーンのテンポの速い曲でも、きちんとブラスを鳴らして上滑りしない厚い音を聞かせてくれるところでして、最近のアクション映画の音楽に比べると落ち着きが感じられます。また、コネリーの心の動きをフォローする部分では、シリアス人間ドラマの音楽をつけますし、コネリーのお城へ向かうシーンでは、冒険映画のような音作りをしています。言い方を変えるとオーソドックスな音作りということになるのでしょうが、コネリーにペーソスが感じられるこういうドラマには、きちんとシーン毎にツボを押さえた彼の音楽はよく合います。音楽をトータルなイメージに統一してしまうハンス・ツィマー一派の音楽は、ストレートなドラマ(「アルマゲドン」のような)にはよく似合いますが、アクション主体でもキャラクターの奥行きがあるというこういうドラマでは、個々のシーンを丹念に描写するヤング(あるいはグレアム・レベル)の音楽の方がまさっているように思います。

プリンス・オブ・エジプト

聖書のエジプト脱出を描いた、ディズニーではない、ドリームワークスのアニメーションです。音楽は歌部分はスティーブン・シュワルツが、スコア部分をハンス・ツィマーが担当しました。ただし劇中歌のほとんどをツィマーがプロデュースしているからか、全体としての統一感のとれたサウンドになっています。主題歌をマライア・キャリーとホイットニー・ヒューストンがデュエットしているのですが、これはまあ、おまけのイベントのようなもので、聞き物は、オープニングの「Deliver Us」でしょう。ドラマチックな奴隷たちのコーラスに、オブラ・ラサの息子を想う祈りの歌へとつながっていくところが圧巻です。また、エジプトに次々と災いがふりかかるシーンは、オーケストラと歌の掛け合いがドラマチックな聞き物になっています。アルバムのジャケットを見ると編曲指揮などに、ハリー・グレグソン・ウィリアムズ、ギャビン・グリーナウェイ、ジェフ・ローナといった面々が参加していまして、ツィマー一家総動員という感じです。ただ、主題歌も含めて、ドラマの割に甘いメロディが多いような気がしましたのと、ところどころ、シンセサイザーでオーケストラのパートを演奏しているのが、気になってしまいました。大変ドラマチックな物語なのですから、全体をもっと重い音にまとめてもいいような気がしました。

吹奏楽ゴジラ

これは、サントラとは関係のないのですが、ゴジラ好きなものでご紹介です。伊福部昭が作曲したゴジラ映画の音楽をコンサート用にまとめたものを、さらにブラスバンド用に編曲したものを東京佼成ウィンド・オーケストラが演奏しました。ゴジラの音楽といえば、ストリングスあっての重厚な音だけに、ブラスバンドであのゴジラのテーマを演奏できるのかという危惧はあったのですが、聞いてみるとなかなかの聞き物になっていました。ストリングス部分を低音管楽器に振り分けて、テンポを若干マーチ調にして、ブラスバンドのための音になっているのです。ゴジラの恐怖のテーマが、山内正の「ガメラ」のテーマに聞こえるのはご愛敬ですが、これなら、文化祭なんかで、ゴジラを演奏できるなあって気がしてきました。「怪獣総進撃」などのマーチは逆にブラスバンドならではのよさが出ています。しかし、演奏がいいからこれだけ聞かせる音になっているなという感じですので、学校の吹奏楽部でこの音が出せるかどうかは微妙なところのような気がします。


「レイズ・ザ・タイタニック」と「ファミリー・ゲーム」以外は日本盤が出ています。「ファミリー・ゲーム」はスコア盤でなく、挿入歌のサントラ盤のみ日本盤を確認しています。

ジャックナイフ
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