夢inシアター
採れたて情報館/No.85


ジャックナイフのちょっとサントラ'99年7月その2


今回は新作でご機嫌を伺います。


ラン・ローラ・ラン

なんてったって走るオネエチャンがかっこいい、不思議な仕掛けのドラマの音楽は、監督のトム・ティクヴァと、ジョニー・クリメックとラインホルト・ハイルが担当しています。とにかくヒロインの走ってるシーンがほとんどの映画ですが、その走っている彼女にビートの効いたテンポの速いダンス・ニュージックをつけました。サントラCDを聞くと映画のあの走りが思い出されるなかなか楽しいアルバムになっています。ドイツ語のラップってのもなかなか耳新しくて、語感の面白さも楽しいものがありました。何しろドイツ語の音楽なんて「クラフトワーク」くらいしか知らない自分ですので、こういう新しめのサウンドにかぶさるドイツ語を聞くのは初めてです。そういうドイツのテクノサウンドの入門としても楽しいアルバムかもしれません。また、ドライブのBGMにするのも一興かも、ただしスピード違反でつかまるかもしれませんけど。

スター・ウォーズ・エピソード1・ファントム・メナス

エヴァンゲリオンなみに長いタイトルのシリーズ最新作は当然の如くジョン・ウィリアムスがロンドン交響楽団を率いての登板です。(待てよ、「スーパーマン」の時はケン・ソーンにバトンタッチしていましたね。)まずはお約束のテーマが流れてきちんとファンの期待は裏切りません。ただ、映画を観た印象からしますと、今回のウィリアムスの音楽は弾まないドラマにめりはりをつけて盛り上げる役目を負わされているようでした。コーラスを交えたドラマチックなダースモールとの戦闘シーンの曲(デュエル・アット・ザ・フェイト)などは曲としては見事なのですが、ドラマをサポートするのではなく、ドラマをリードするようなポジションに置かれているので、饒舌にならざるを得ない、言い換えると、抑制のきいたうまさを出せなかったような印象です。静かな部分も、カートゥーンのような画面の動きと徹底的にシンクロさせたような音作りですし、何か全体に制約があるような印象なのです。ポッドレースのパレードの音楽は昔の史劇を思わせてなかなか楽しいですし、クライマックスもなかなかに盛り上がるのですが、今回、個人的にはもっともウィリアムスらしさがあったのは、ラストのグンガン族のパレードの音楽だったように思います。少年コーラスを交えたマーチは、このサントラCDに重くのしかかる呪縛を一掃する楽しさがありました。また、エンドクレジットで、やっとやりたい放題という感じで、思い切りコーラスを使っているように思えました。(この曲にふさわしいだけのシーンが本編になかったのかと思うのは、うがちすぎかしら?)

輝きの海

ビーバン・キドロン監督の文芸作品の音楽を手がけたのは、007シリーズや、「マーキュリー・ライジング」「マイ・ライフ」など様々なジャンルの映画を手がけながら、自分のカラーを明確に出し続けるジョン・バリーです。この映画でも、彼の音楽は10秒聞けばすぐにバリーだとわかる、たゆたうようなストリングスが海を奏でるところから映画が始まります。イギリス室内管弦楽団をバリー自身が指揮して、厚い音を聞かせてくれます。今回は比較的テーマが明確で、主人公がロシア出身という設定だからでしょうか、ちょっと日本の子守り歌を思わせる切ない節回しが印象的です。彼の音楽は、こういう時の流れを見つめるような物語でその実力を発揮するようです。そんな叙事的な物語にふさわしい重厚な音に、叙情的な旋律が加わることで、無敵の映画音楽に仕上がりました。本編には流れない、メインテーマに詩をつけた主題歌(?)もアルバムに収録されているのですが、またこれも聞き物です。007シリーズでも、色々なアーチストが主題歌を歌うときに必ず作曲とプロデュース(あるいはアーチストと共作という形)に参加してきたバリーだけに、今回の主題歌も映画のカラーをきっちりと押さえたものになっています。映画で聞けない歌が入っていて得したと思える珍しい例と言えましょう。

レッド・バイオリン

あるバイオリンを巡る4世紀に渡るドラマの音楽を手がけたのは、現代音楽の作曲家としても有名らしく、映画音楽も「アルタード・ステーツ」を手がけているジョン・コリリアーノです。ジョシュア・ベルのバイオリン・ソロに、エサ・ベッカ・サロネン指揮によるフィルハーモニア管弦楽団が重厚な音を聞かせてくれます。オープニングはバイオリンではなくて、女性のハミングで始まるのですが、このメロディが時間を超えて全編を貫くテーマになっています。アルバムには映画の情景音楽として使われる曲と、実際にドラマの中でレッド・バイオリンが奏でる曲との両方が収録されています。映画が音楽やバイオリンをややぞんざいに扱っているのに、音楽は本当に美しくドラマを謳いあげています。また、映画のためとは別に「レッド・バイオリン:バイオリンとオーケストラのための『シャコンヌ』」という17分に及ぶ曲が収録されており、これがまた聞き物です。

メッセージ・イン・ア・ボトル(スコア盤)

前回は、歌がほとんどで、ガブリエル・ヤールによるスコアは3曲19分だったのですが、今回は、ヤールのスコアのみで17曲38分たっぷり聞かせてくれます。この映画の中で海にかかわる部分はヤールのスコアがほとんど表現しています。この映画が単なるセンチメンタルな映画にならなかったのは、ヤールのスコアが海を前面に出していたからだと再認識してしまいました。しかし、3曲19分の中にヤールのスコアの主要旋律は収まっていますので、前に出たアルバムを買った方には、あえてオススメはしません。


今回は、全て日本盤が発売されています。

ジャックナイフ
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