夢inシアター
採れたて情報館/No.83
ジャックナイフのちょっとサントラ'99年6月
今回は新作ものでご機嫌を伺います。
アカデミー賞獲りまくったラブコメディ(死語か?)の音楽を担当したのは、新鋭スティーブン・ワーベックでして、この音楽もアカデミー作曲賞を受賞しました。オープニングのオーケストラによる軽快なテーマからして、音楽がドラマをうまく弾ませています。このテーマが、大変前向きでアクティブなヒロインにうまくマッチしていまして、管楽器を前面に出したシリアスな部分も、ドラマが淀まないテンポをキープして、ヒロインの軽やかなひたむきさが、音楽でよく表現されています。また、音楽が登場人物の感情を先走って表現するのではなく、あくまで画面上の事件をサポートしていく音作りになっていまして、そういう意味では地味めの音楽ということもできるのですが、中音域のストリングスを厚く鳴らしているあたりなど、CDで聞き直すときちんと音楽が主張をもっているのがわかって、なかなかの聞き物です。妙に甘い音をつけなかったあたりにワーベックの見識があったようで、ちょっと切ないエンディングまで、波瀾万丈の物語にやや距離感を置いているセンスが好きです。
予告篇ではSFXだけの映画かと思ったら、どっこいなかなか見応えのあったSFドラマの音楽を、唯一音楽だけがカッコよかった「アベンジャーズ」のジョエル・マクニーリーが担当しました。何しろ未来の宇宙の果ての物語ですが、戦争映画風の勇ましい音作りから始まります。ホーンががんがん吠えまくり、パーカッションが鳴りまくる重量感のあるアクション音楽が展開します。一方、要所要所に挿入されるエモーショナルな音が、表情を表に出さない主人公の葛藤をうまく表現しており、なかなかにメリハリのある音楽が、ドラマをしっかりと支えています。これだけ音楽をきっちり鳴らした映画は最近は珍しいのではないかという気もしますが、CDで聞き直してもなかなかに血湧き肉踊る音楽になっています。パターン化されているといえば、そう言えなくもないのですが、丁度、ジェリー・ゴールドスミスとレナード・ローゼンマンの中間という感じの重すぎないパワーはこの先の作品でも期待できそうです。
毎度おなじみ、「スタートレック」、ピカード艦長に代わってからもシリーズは快調のようです。そして、音楽は御大ジェリー・ゴールドスミスの登板なので、期待してしまうのですが、意外やオープニングは静かなハープと管楽器で始まり、そこにホルンがかぶさって、弦がからんでくる牧歌調のテーマです。映画のオープニング同様、SF映画らしくないなあと思っていると、段々とスリリングな音が聞こえてきます。今回は今までのようなスペクタクルの見せ場は少ないのですが、それでも活劇調の部分はいつものゴールドスミスらしい音が聞かれます。とはいえ、このあたりは定番というべきもので、オープニングで「オヤ?」と思わせてくれたのに比べれば、まあこんなものかなという感じでした。でも、音だけ聞くととてもSF映画には思えない史劇のようなドラマチックな音作りには、さすがにベテランの底力を感じてしまいます。
天国と地獄、一気に見せましょうツアーとも言うべき映画ですが、音楽を「ウィンター・ゲスト」「イベント・ホライズン」と死がキーになる映画を手がけているマイケル・ケイメンが担当し、ロンドン・メトロポリタン・オーケストラを自ら指揮しました。主人公二人の出会いのシーンから始まりまして、そんな現実世界の描写からして、ファンタジックな美しい音作りが全体のトーンとなっています。静かなシーンに流れるピアノメインのテーマが大変魅力的で、そのつまびきのような音からフルオーケストラの音へと展開していくあたりは、ケイメンのうまさが光ります。地獄のシーンのハッタリ音楽も彼らしい重厚さがあるのですが、やはり主人公やその妻子を描写する静かな曲に心をひくものがありました。
デ・ニーロとジャン・レノ共演のしぶーいアクション映画の音楽を手がけたのは、まだあまり日本では知られていないエリア・クミラル(男性です)という人、日本の浪人がテーマだからというわけでもないのでしょうが、ちょっとエキゾチックで重いテーマがなかなかに決まっています。派手なカーチェイスがあっても、ドラマは決して軽い方に走らないだけに、音楽もオーケストラによる重量感を常に感じさせるもので、はっきり言って地味な音です。でも、シンセサイザーや弦の高音部を駆使したサスペンスの盛り上げはなかなかのもので、アクションシーンの音楽では、様々な打楽器群を鳴らして迫力のある音作りをしています。最近のアクション映画にあるようなシンセサイザーによる音の膨らましをしていないので、タイトにまとまった音楽に仕上がっています。
ジョン・バリーと言えば、何と言っても007で有名なのですが、それ以外でも映画音楽の名曲を数多く手がけています。毎度おなじみの、シティ・オブ・プラハ・フィルハーモニックによる2枚組CDによるジョン・バリー作品集です。初期の作品「ズールー戦争」「キングラット」から「真夜中のカーボーイ」「ザ・ディープ」、そして、「ダンス・ウィズ・ウルブス」最近作では「スペシャリスト」「マーキュリー・ライジング」まで聞けるというなかなかにお得なアルバムです。バリーの音楽は類似フレーズの反復、ホーンセクションの使い方などに特徴があって、大体ちょっと聴くとバリーとわかる個性の強い作曲家ですが、それでもこのアルバムを聴くとその音のバラエティに改めて感心させられます。個人的には、アクションスリラー「マーキュリー・ライジング」が彼の音楽によって、いかにドラマに潤いが与えられていたかを再認識できたのが収穫でした。とはいえ、このCD、ジャズタッチの2曲を除けば、30秒聴けばバリーだとすぐわかるあたりが、ジョン・バリーだとあらためて感心してしまうのでした。
「ジョン・バリー作品集」以外はみな日本盤が出ています。
ジャックナイフ
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